研究課題/領域番号 |
23560004
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岡田 佳子 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (50231212)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | bacteriorhodopsin / sensor |
研究概要 |
高度好塩菌から得られるバクテリオロドプシンを電極に固定化し電解質溶液を封入した電気化学セルは,時間微分応答の光電流検出器として機能する.我々はITO ガラス基板上にバクテリオロドプシン(bR)薄膜を作製し,その光電流応答特性の評価を行ってきた.本研究は,安価な水溶性ポリマーを用いた導電性プラスチックと,生物由来の視覚機能タンパク質を組み合わせた「柔らかい微分応答光センサー」を開発すること,およびタンパク質と電解質溶液を導電性プラスチックではさんだサンドイッチ型セルを,厚み方向に積層して出力の増大を図ることを目的としている.初年度は材料確保のため,本経費で購入した大型培養器と5万Gの高速遠心分離機を用いて,バクテリオロドプシンの大量培養と単離を行った.ショ糖密度勾配遠心分離法に必要な10万G遠心機はNICTの施設を利用した.培養/単離したバクテリオロドプシンを用いて,ITOガラス上に種々の製膜方法でパターニングを行い,微分光応答特性を確認した.すでに実験推進中のキャスト法,ディップコーティング法に加えてスピンコーティング法を試みた結果,50nm膜厚のとき,キャスト法の3~5倍に対応する最大出力が得られた.この膜厚50nmはバクテリオロドプシン分子膜12~14層に対応する.また効率的な光電変換のため,イオン導電性媒体にはKCl,pH制御のための緩衝化合物(buffer)にはTrisを選択し,電解質濃度と水素イオン濃度(pH値)の最適化を図った.さらに,入力光強度 60 mW/cm2 のとき、ON:420nA, OFF:320nA を出力する,ほぼ同等な3つの単層セルを準備し,積層接合して並列接続した. この3層セルの出力は,ON:750 nA,OFF:540 nAを示した.単純な加算出力は得られなかったが、単層セルより 78 %の出力増強を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の予定は,材料確保と製膜技術の確立,および電解質溶液の検討であった.ショ糖密度勾配遠心分離法に必要な10万G高速冷却遠心機を購入することはできなかったが,その行程のみ,NICTの装置を借用し,購入した5万Gの遠心機によって1回に10L,数10mgの材料確保が可能になった.製膜技術の確立に関しては,電気泳動法,LB法ともに製膜装置が入手できなかったため,既存のスピンコーター装置を使用し,ランダム配向のみ行った.しかし,密着度がよく,回転数によって膜厚制御が容易で,キャスト膜の5倍程度の出力が得られたため,本年度はこの製膜方法のみを採用した.電解質はKClに固定し,電解質にゼラチン,寒天,ポリアクリルアミド,ポリビニルアルコールなどの高分子有機材料からなる固体電解質を混合してみたが,出力に大差なかった.さらに,次年度以降の予定であった,多層化による出力変化の測定を行った.セルを 3層に重ねて並列列接続し,出力特性(時間応答および周波数応答)を検討した.出力光電流の増大,および積層による応答のずれはほとんど無いことを確認した.以上の結果から,本年度はおおむね順調に進展したと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,現在すでに成功しているITOガラス基板を使った固いセンサーから,まずプラスチック基板ITOを用いた「柔らかいセンサー」に置き換える.スピンコーティング法だけでなく,本年度着手できなかったLB膜,電着膜など種々の配向・製膜技術を用いて受光部の高感度化を図る.さらにITOを導電体ポリマー(PEDOT/PSS,PEDOT/PVSなど)に置き換えて「有機センサー」を開発する.このような塗布型の製膜方法は,セルの積層化を容易にするので,まずセルを3層以上に重ねて出力の増大を図る.
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次年度の研究費の使用計画 |
備品として,バクテリオロドプシン大量培養単離に必要な,大容量高速冷却遠心機用アングルローターを購入する.残額は化学薬品,ITO-PET基板,光学部品等消耗品および,成果発表のための海外出張旅費にあてる.
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