本研究では,プラズマ照射によって窒化ガリウム(GaN)結晶の表層のドナー原子が不活性化する現象の基礎物理を明らかにすることを目的とした.ドナーが不活性化される領域は,プラズマ中のイオンの注入飛程から予想される深さに比べて桁違いに大きい(増速拡散).本研究代表者は,その原因としてプラズマ発光に着目して研究を進めてきた.その結果,ドナーを不活性化している欠陥の増速拡散には,プラズマ発光を吸収して発生した電子-正孔対の再結合に伴うエネルギー放出が関係していることが示唆された.アニールによってドナーは再活性化されるが,それには関与欠陥の電子励起に伴う荷電状態変化が重要であることが明らかになった.本研究によって得られた主要な研究成果は以下の通りである. (1)欠陥の増速拡散に対するプラズマ発光の影響を実験的に検証するために,プラズマ装置内でイン・プロセスに紫外光を付加的に照射する実験を行い,光の影響は欠陥の導入過程ではなく拡散過程において顕著であることを明らかにした.また,プラズマ照射した結晶上に作製したショットキー接触ダイオードに紫外光を照射することで,室温においても短時間で欠陥が拡散することを見出した.この現象は禁制帯に満たない光子エネルギーでは起こらないことから,欠陥の増速拡散には電子-正孔対の発生が関係していると結論づけた. (2)ショットキー障壁ダイオードを用いてバイアスを印加しながら行った一連のアニール実験の結果から,ドーパントの不活性化を引き起こしている欠陥の挙動は,その荷電状態に大きく依存することを明らかにした.さらに,禁制帯の半分以下の光照射下の実験結果も併せて,ドナー・欠陥複合体の解離過程をモデル化し,プラズマ照射誘起欠陥がネガティブU型または両極性欠陥である可能性を示した.
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