研究課題
平成24年度は平成23年度に続いてサファイア基板上への低酸化度VOx薄膜の堆積を実施した.平成23年度の成果を踏まえて,より高い成長温度である500~550℃における堆積を行った結果,V4O7及びV5O9組成を有するマグネリ相VOx薄膜において2桁近い絶縁体‐金属転移(MIT)挙動を実現できた.基板温度の上昇によって結晶性が改善されたたおめと考察された.平成23年度までに実現していたV2O3相は室温において金属的な電気伝導性を示すものであり,今年度の成果によってV2O3からVO2組成に至る広い範囲においてマグネリ相成長及び電気伝導性制御が達成できた.また,これら酸化度の異なる結晶相の相共存に関して,カチオンであるV原子の価数評価をESCA分析によって行った.更にポストアニールによって相共存状態を制御できる可能性を示した.反応性スパッタ法によるas-depo.膜は高エネルギー粒子入射の効果等によって相共存状態にあるが,500~600℃でのアニールによって酸素欠陥の補償や結晶化が促進され,均一相に近いVOx膜を作製できることが明らかになりつつある.また,平成24年度はICP支援スパッタ法によって金属膜上への相転移VO2薄膜の成長を実現した.金属膜としてCoCrTa合金膜及びTiを用い,CoCrTaではVO2の配向成長を,Ti上ではランダム多結晶VO2薄膜結晶の成長を得た.金属上への酸化物結晶成長は金属の酸化及び拡散という大きな課題があることから一般に難しい技術であるが,ICP支援スパッタ法のプラズマ支援効果を通して250℃程度という低温での結晶成長を実現できた.金属バッファー層上への成長は,膜厚方向への電圧印加スイッチングや3電極型素子の作製など多様な応用への途を拓くものであり,VOx膜の電子機能性を研究する上で非常に有用となる基本技術を提供するものである.
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は平成23年度の成果を踏まえて,より高い成長温度である500~550℃におけるVOx薄膜成長を行い,V4O7及びV5O9組成を有するマグネリ相VOx薄膜において2桁近い絶縁体‐金属転移(MIT)挙動を実現できた.平成23年度までに実現していたV2O3相は室温において金属的な電気伝導性を示すものであり,今年度の成果によってV2O3からVO2組成に至る広い範囲においてマグネリ相成長及び電気伝導性制御が達成できた.また,これら酸化度の異なる結晶相の相共存に関して,ESCA分析によってV原子の価数を明らかにした上で,アニールによって相共存状態を制御できる可能性を示した.これらの成果は本研究のテーマである酸化度の異なる相転移酸化物結晶の成長とそれらの電気伝導特性を明確にするという目的に照らして大きな成果である.また,平成24年度の主な取り組みとして挙げた金属膜上への相転移VO2薄膜の成長に関しても,Ti上へ成長したVO2薄膜において2桁以上の急峻な抵抗変化を実現できた.金属上への酸化物結晶成長は金属の酸化及び拡散という大きな課題があることから一般に難しい技術であるが,ICP支援スパッタ法のプラズマ支援効果を通して250℃程度という低温での結晶成長を実現できた.金属上へのVO2薄膜成長は,今後のデバイス作製の基本技術を提供するものであり,非常に重要な成果である.これらの成果は研究最終年の平成25年度における研究実施へ向けて確固たる基盤を与えるものであり,本研究の目標達成へ向けておおむね順調に進展していると考えている.
平成25年度は平成23~24年度の成果を踏まえて,当初の研究計画に従って積層型デバイスの作製及び高速なパルス電圧印加に対する応答や電界効果について調べていく.この際,VOx酸化物のモット転移機構に基づく金属‐絶縁体転移の発現に注目しながら,より高速なスイッチングやメモリー性の発現といった電子デバイスとして注目度の高い事項について検証していく.このようなデバイス構築のために,マグネリ相を含む相共存に関する知見が重要であり,相共存の積極的な利用や均一相の作製といったアプローチが必要になるものと考えられる.また,本研究の過程で見出した準安定な低温相であるM2相VO2結晶薄膜のMIT特性を詳細に測定検討し,積層デバイスにおけるM2相膜の特長を明らかにしていく.モット絶縁体として大きな関心が寄せられているM2相VO2薄膜の成長と応用に関する知見は,モット絶縁体の物性解明や応用展開にとって非常に重要な成果となり得るものである.今年度の後半は研究を実施した3年間の実験結果及び文献調査や理論的な検討を基にして,酸化度の異なる相或いは相共存下にあるバナジウム酸化膜の電気伝導特性及びその機能性について考察・検討を深め,研究の総括を行う.
該当なし
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Journal of Applied Physics
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