研究課題/領域番号 |
23560015
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
竹内 哲也 名城大学, 理工学部, 准教授 (10583817)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 窒化物半導体 / トンネル接合 / 低抵抗化 / 水素脱離 |
研究概要 |
本年度は全研究計画の初年度であり、(1)ベーストンネル接合の最適化と(2)極薄膜形成技術の確立を進める計画であった。まず、この二点について記載する。(1)最適化された窒化インジウムガリウム(層厚:3nm、In組成:20%)に高濃度添加(Mg濃度:1e20cm-3)することにより、表面平坦性(1nm以下)と低抵抗(20Ω)を両立させることができた。これまで50mA駆動時には3V以上の電圧を印加する必要があったが、最適化後は1Vまで低下し、計画通りの結果を得た。さらに、計画当初、意図していなかった順方向電流電圧特性を調べることにより、この低抵抗トンネル接合は単純なバンド間トンネル電流ではなく、バンド内界面準位を介したトンネル電流であることを示唆する結果を得た。この結果は、極めて重要な結果であると認識しており、界面準位の把握、その形成要因を追究することで、低抵抗化に向けた明確な指針が得られると考えている。(2)窒化アルミニウムの薄膜形成を行ったところ、実験の範囲内では窒化アルミニウムが3次元的に成長し、計画の層状2nmを成長させることが困難であることがわかり、次年度に課題を残す結果となった。一方でこの三次元的成長による格子緩和をAlN/GaN多層膜反射鏡に利用し、高反射率(97.5%)を得ることができている。 上記計画以外の内容として、次年度に行う予定の(4)既存素子への適用を前倒しで進めた。既存LED上にトンネル接合を設けると、その構造上、n層が最表面になる。このn層が、p層のMg活性化に必要な水素脱離を阻害していることを新たに見出した。さらに、その解決策として表面ではなく側面から水素を脱離する新しい手法を提案、その効果を検証した。その結果、(1)で示した低抵抗化の達成に繋がり、さらに、これまで困難であった水素脱離過程における拡散係数の算出にも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度計画における二つの項目に対しては、一つは計画通りの進展であり、もう一つは困難であることが判明したことから、その達成度は50%である。一方、計画に盛り込んでいなかった順方向電流の特性を検討することで、トンネル電流の起源に関する重要な知見(界面準位の介在の可能性)が得られ始め、さらなる最適化に向けた大きな指針に繋がる可能性を見出している。さらに、次年度行う予定の内容を一部前倒しで進め、その結果、トンネル接合を有する素子構造では、従来のp層活性化手法は効果がないこと、さらに推し進めて側面を利用した新しい活性化手法を考案・検証した。その上、水素の拡散係数という物性値も算出することができた。以上の結果から、計画を大きく上回る成果を出すことができ、次年度以降のさらなる発展を目論んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
計画通り、(2)極薄膜形成技術と(3)新規トンネル接合を進める。ただし、極薄膜形成は本年度その難しさが露呈したことから、必要以上にこの項目に注力しない方針である。一方、界面準位の介在がトンネル接合の低抵抗化に大きく関与していることが本年度判明した。この新しい観点に基づいたトンネル接合のさらなる低抵抗化を目指す。すなわち、(3)の新規トンネル接合形成では、界面準位の理解と、その積極的な形成という観点で研究を推進する方策である。これまで、界面準位は素子応用において忌み嫌われるものであったが、本研究により界面準位の積極的な利用という新しい学術領域を開拓する可能性がある。 さらに、最終目標である(5)新規素子への応用に向けた埋め込み型トンネル接合も計画に先んじて進める方策である。この場合も、本年度新たに見出した側面からのp層活性化手法を活用し、様々な素子構造であっても普遍的に活用できることを検証していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
上記推進方策のために、次年度もトンネル接合試作のための結晶成長、素子形成、特性評価を進める。本年度は、結晶成長装置の大きなトラブル(本体側プログラマブルコントローラ故障)が発生し、ダウンタイムが3か月以上あったため、次年度使用額が生じた。次年度はこの額を、素子試作に上乗せすることで研究推進を図る。研究費の使用計画は、以下の通りである。【結晶成長】トリメチルガリウム:50万円、サファイア基板×50:20万円、石英部品:40万円【素子形成】フォトマスク×8枚:70万円【特性評価】界面分析:50万円(以上合計:230万円)
|