研究課題
酸化物半導体表面/界面に光を照射すると起電力が発生し、ある緩和時間を経て元の平衡状態へと戻る。本研究では時間分解光電子分光システムを構築し、この一連の電子状態変化をリアルタイムで追跡することで太陽電池や光触媒反応などを支配するキャリアのダイナミクスを調べる。本年度は理論計算で表面金属化が予測されていた水素終端SrTiO3表面について、その実証実験を行った。国内外の放射光施設にて行われた光電子分光測定の結果、SrTiO3清浄表面の電子構造は絶縁体的であったが水素吸着表面では金属バンドが観測された。この金属的な電子状態は表面近傍のバンド湾曲効果によってSrTiO3結晶のバルク伝導帯がフェルミ準位を横切ることで発生することが分かった。SrTiO3の伝導帯中の電子間には比較的大きな電子相関効果があり、光電子スペクトルにおいてそれに起因する状態も観測された。この表面金属化は、表面電子輸送実験において水素吸着に伴う表面電気伝導率の上昇としても確認された。酸化物表面における絶縁体-金属転移は珍しく、今後エレクトロニクスへの応用も期待された。本研究成果はPhysical Review Letters誌にて公表した。一方、本グループが開発中の時間分解光電子分光システムが今年度完成に至った。目標の装置性能を達成し、安定かつ再現性の良い時分割測定が可能となった。金属的な水素吸着SrTiO3表面は光起電力効果で絶縁体になることが予想され、表面における光誘起電気スイッチングへの応用が期待される。本年度は我々のシステムを用いた時間分解測定の予備実験も開始された。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度、目標としていた1.SrTiO3表面水素吸着による金属化の観測、2.時間分解光電子分光システムの完成、に至り、さらにそれぞれの論文を年度内に公表できたから。
本研究課題は予定通りに進んでいる。今後も申請書の計画通りに研究を行う。酸化物表面の時間分解光電子分光測定などを行う予定である。
本研究では、50万円以上の高額物品の購入は予定していない。これまでと同様に真空部品や光学部品を装置改良に応じて購入していく。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (13件)
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