研究課題/領域番号 |
23560021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 益明 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40251459)
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キーワード | 薄膜 / 表面構造 / 低速電子回折法 / 低速電子顕微鏡法 / 動力学的解析 / 鉄シリサイド |
研究概要 |
今年度は,連携研究者の日比野氏の所属するNTTにおける低速電子顕微鏡(LEEM)を用いた観察に加え,SPring-8の利用研究課題に応募し,分光型光電子・低速電子顕微鏡によるシリコン表面上の鉄シリサイドナノアイランド成長初期過程の研究という実験課題(課題番号2012B1347)で,BL17SUビームラインの3シフト(24時間)を獲得して実験を行った. SPring-8での実験時間が限られていたため,第一の試料としてはNTTで作成した反応堆積(RDE)法による三角形状の島構造の存在する薄膜を用いて,特に光電子顕微鏡(PEEM)による観察を行った.鉄のL3及びL2X線吸収端付近の700-740 eVのエネルギー範囲の入射光を用いて,PEEM像の入射フォトンエネルギー依存性を測定し,PEEM像から高い空間分解能でX線吸収スペクトル(XAS)を抽出した.鉄は三角形状の島に集中しており,2つのピークが存在していることから価数の異なる2種類の結合状態の存在が確認された.SPring-8の装置には分光器が備わっているため,LEEMの回折モードでの測定において,二次電子の影響を排除することが可能である.これによりバックグラウンドノイズの少ないLEEDのI-V曲線を測定することができた.また,NTTからSPring-8に運搬する際に大気中に出すことの影響を調べるため,in-situでの実験も行い,ほぼ同じ結果が得られることを確認した. NTTにおいては,RDE法だけでなく,固相エピタキシー(SPE)法による成長過程のLEEMによる観察と作成した薄膜についてのLEEDのI-V曲線の測定を行い,STMによる実験と同様,RDE法とは大きく異なる膜の成長を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにRDE法により作成した薄膜について,LEEMだけでなくSPring-8の放射光入射によるPEEMの測定をおこなうことに成功した.LEEMにおいてはLEEDパターンの異なる2種類の三角形島の存在が明瞭に確認されているが,これらをPEEMでも測定したところ,それらの間に違いは発見できていない.このことが構造は異なるものの,化学的にはよく似た組成の薄膜の存在を意味しているのか,それとも単に相違を発見できていないだけなのかについては,より詳細な測定が必要である.LEEMのLEEDモードで,視野を制限することによる微小領域のLEEDパターンの測定および解析をおこなっているが,NTTの装置では,特に低エネルギーにおいて二次電子によるバックグラウンドの影響が大きく存在するため,動力学的な解析が困難であった.今年度のSPring-8のマシンタイムにおいて,分光型のLEEM装置を用いることによって二次電子を除去することができたため,バックグラウンドノイズを大幅に減らした明瞭なLEEDパターンを測定することができた.利用可能な制限視野の大きさは島のサイズに比べて大きいが,1/2次の回折点に寄与できるのは2x2構造を有する島のみであることをLEEM二より確認したため,これを用いて2x2構造を有する島についての構造解析が可能となったと考えており,これを用いたLEEDの構造解析を進めつつある.
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今後の研究の推進方策 |
4月より東京大学から東京学芸大学に異動するため,そちらでも薄膜作成やLEEDの測定ができるような環境を整える予定であるが,当面は東京学芸大学では主に解析をおこない,実験については,これまでと同様に東京大学生産技術研究所,NTT物性基礎研究所,SPring-8において進める予定である.今年度のSPring-8のマシンタイムにおいて,分光型低速電子顕微鏡を用いることにより低バックグラウンドノイズのLEEDのI-V曲線を得ることができたため,東京学芸大学に早急に計算環境を整備し,その構造解析を進めたい.LEEMにより2種類の鉄シリサイド島構造について,一方だけが2x2構造であることが判明しているため,2x2構造を持つ側の島構造については.1/2次回折点のI-V曲線を用いたLEEDの動力学的解析が可能である.2x2構造を持たない側の島については,0次回折点のみを用いた解析となるため精度は悪くなるが,2x2構造の島との比較により,できる限りの情報を得たい. 実験については,東京大学生産技術研究所において薄膜の作成と走査トンネル顕微鏡による観察を行い,NTT物性基礎研では固相エピタキシー(SPE)法による薄膜作成時のLEEM観察を進める.SPE法では室温での鉄の吸着後に加熱を行うため,鉄の初期被覆率を変化させることにより,多様な薄膜の作製が可能である.いくつかの初期被覆率で作成される薄膜の違いを明らかにしたいと考えている.さらにSPring-8においてもSPE法により作成した薄膜についてPEEMの測定による化学的な性質の評価とLEEDのI-V曲線の測定及び構造解析をおこない,RDE法により作成した薄膜との相違について考察する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費については,まず,東京学芸大学において,鉄シリサイド薄膜の作成やLEEDパターン及びI-V曲線の測定ができるような環境を整備するための費用が必要である.その一部は東京大学生産技術研究所から運搬する必要があるため,その運搬費用に使用する予定である.また,東京学芸大学,東京大学生産技術研究所,NTT,SPring-8での実験および解析に必要な消耗品,さらに,実験や実験準備のための移動の交通費に使用する.また,研究成果を国内外の論文誌や学会において発表するための費用及び交通費等にも使用する予定である.
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