研究概要 |
申請者は25年以上にわたりブリルアン散乱法を駆使して、金属磁性体のスピン波分光研究と交換相互作用定数を中心とする磁気定数の評価を行ってきた。申請者の研究グループは金属/非金属グラニュラー強磁性膜(TM-Al-O:TM=Fe,Co)の磁性と輸送現象の係わりに注目し、低温磁場中での磁気・輸送物性を精力的に研究してきた。 Fe,Co膜共に100K以下の温度領域で電気抵抗の極小が出現し、高温側はTの2乗則に、低温側ではlogT則に従うことを見出した。室温では強磁性スピン波をブリルアン散乱で観測していることから、2乗則は理論的に予想されているスピン波散乱項と解釈できる。スピン波散乱が明瞭な形で観測されたのはこの物質系が最初の例である。 これらの膜の磁化測定を行い、Fe膜の磁化曲線は室温から4.2Kまで殆ど磁化曲線の形状が変化しないのに対し、Co膜では温度低下に伴い磁化曲線が非対称化し、同時に保持力が対数的に振る舞うことを見出した。これらの磁化曲線の温度変化はこれまで報告例がなく、新しい物理現象がこの材料系に内在している可能性が考えられる。加えて、Co-Al-O膜では磁化の温度変化がBloch則に全く従わないことも明らかになった。我々のグループは詳細な研究から、G. Herzerが1990年に提案したrandam anisotropy model を低温で適用できる可能性があり、強磁性Co-Al-Oグラニュラー膜に作用する交換相互作用の振る舞いが新規な磁気現象を理解するためのキーポイントであると結論するに至った。 これらの研究成果を通じて、TM-Al-Oグラニュラー膜における低温ブリルアン散乱の研究目的が明確化すると共に、他の磁性膜についても今後の重要な研究課題として認識された。申請代表者は大震災に付随して発生した多くの困難・問題点を解決して、低温ブリルアン散乱測定を可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
現有装置を用いて、積算時間4~6時間で確実にスペクトルが得られる。計算上は1日1個のスペクトルの測定ができることで、実験スケジュールをほぼ確定できる。 ① 現在、震災前からの課題であった超常磁性Co-Al-O膜の磁気励起散乱測定を進めており、2.0,3.0,4.0,4.5kOeの各磁場で300,250,200,150,100,50,15Kでの測定が既に完了している。この後、1.0kOeの磁場中で温度変化測定を予定しており、7月初旬には超常磁性膜の測定は終了する。超常磁性膜の磁気励起散乱の温度-磁場依存性の研究はこれまで報告されておらず、本研究が最初の例となる。 ② 観測された磁気励起スペクトルは半値幅が広い過減衰状態であるが、高磁場になるとピークの半値幅が狭くなりピーク強度が増大することが分かった。強磁性膜のスピン波ピーク幅は磁気励起ピーク幅より1桁狭いことから、ピーク強度は1桁増大することが期待される。低温での実験も短時間のスペクトル積算で完了するであろう。1日で数個のスペクトル測定ができれば、研究効率は飛躍的に改善される。 ③ 3種類の組成を持つ強磁性試料は平成25年6月末に提供される予定である。試料作製に当たって、低温での熱伝導も考慮して試料基板には単結晶サファイアを用いることとし、サファイア基板を購入する。強磁性試料については、夏休み期間を利用して集中的に実験を行う予定である。東北大で電気抵抗・磁化曲線の測定を行う。 ④ 申請代表者は平成25年度より理工学部長に選出されたため、研究に振り向ける時間をさらに減らさざるを得ない事態となった。研究効率を保持するため、小原紀子博士(お茶の水女子大・理・博士後期課程修了)を実験補助として採用する。装置の取り扱い法から実験法までを教授し、代表者が講義や会議で不在時においても実験を実施できる体制を確保する。
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