大学が立地する石巻市は、平成23年3月11日の東日本大震災により大きな被害を受けた。建物の3階にある実験室では、長時間の強い揺れにより、実験機器に深刻な被害が発生した。このため、研究初年度の平成23年度は大部分の時間を研究室を震災前の状態に復帰させること、および破損したレーザーを含む実験装置の修理と交換に費やさざるを得ず、当初の研究計画に大幅な変更と遅れを生じた。平成24年度は低温装置と分光器の整備に努め、新規光源として青色固体レーザーを科研費で備品購入した結果、平成24年度末には申請研究の目的である磁性膜の低温磁場中でのブリルアン散乱実験が可能になった。 平成25年度はCo-Al-O超常磁性膜について、4.5kOeまでの磁場中で室温300Kから15Kまでの温度範囲で磁気光散乱スペクトルの測定を行った。測定と並行して、超常磁性膜からの磁気散乱スペクトルを定量的に解析するための理論式を導出した。この理論式を用いて測定されたスペクトルの解析を行った結果、150K付近を中心として磁気散乱ピークの振動数と半値幅に異常な温度変化が存在することを見出した。これらの温度変化に対して単一分散を仮定して解析した結果、室温程度の低い活性化エネルギーと、τ~10ps程度の短い緩和時間を持つ分散として説明できることが分かった。 これまで、ブリルアン散乱による低温における磁性薄膜の磁化動力学に関する研究はほとんど行われていない。本研究で得られた重要な成果は、① 長距離磁気秩序状態が発生しない超常磁性体において、強磁性的な磁気励起が存在することを確認したこと、② 強磁性微粒子の磁化の運動に関連すると思われる速い緩和過程を初めて観測したことである。本研究で確立された低温ブリルアン散乱測定法は強磁性膜の低温スピン波測定のみならず、単結晶磁性体や金属試料の弾性研究にも適用できる。
|