研究課題/領域番号 |
23560034
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研究機関 | (財)佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター |
研究代表者 |
小林 英一 (財)佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, その他部局等, 主任研究員 (80319376)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 軟X線吸収分光 / 絶縁体 / 欠陥 / 表面 |
研究概要 |
絶縁材料の表面の分析は主にプローブとして電子やイオンが用いられるためチャージアップの問題で困難であった.また,従来の材料をより高機能化するには,材料が動作中の状態を観察することが必要である.そのような観察には,プローブとして光を用いた手法が有効である.そこで,本研究では材料の電子状態をその場観察できる全蛍光収量法による軟X線吸収スペクトル測定装置を用いて,酸化マグネシウムの絶縁破壊のメカニズムを解明することを目的とする.酸化物の絶縁破壊の原因の一つとして,酸素欠陥がある.初年度は酸化マグネシウムの電子状態が酸素欠陥の種類や量によってどのように変化するかを明らかにすることを目的とした. 最初に試料はチャージアップの問題がない膜厚10 nmの酸化マグネシウム薄膜を用いた.酸素欠陥のある試料は表面の水や炭化物を取り除くために真空中で加熱処理した後,アルゴンスパッタすることで作製した.およそ500℃の加熱処理で薄膜表面の水等は脱離していることが軟X線吸収分光法と光電子分光法により確認されたが,炭素が残っていることがわかった.その炭素は,薄膜作製の過程において吸着したものであると思われるが,現在調査中である.加熱処理した表面をアルゴンスパッタし,全電子収量法により軟X線吸収スペクトルを測定した.その結果,スパッタ時間が長くなるにつれて,軟X線吸収スペクトルはブロードになった.これは酸化マグネシウム薄膜が還元されたためであるが,詳細は現在解析中である. 次に,単結晶試料に関して,水素雰囲気中で加熱し,酸素欠陥の生成を試みた.しかしながら,600℃までの加熱処理では,全蛍光収量による軟X線吸収スペクトルはあまり変化がなかった.以上の結果をもとに,試料を水素雰囲気中で600℃以上の高温(約950℃程度)で加熱処理し,大気に曝さずに軟X線吸収スペクトル測定装置に移動できる装置を設計した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は,真空中或いは水素雰囲気中で加熱することで酸素欠陥を生成した試料を作製し,加熱温度,時間や水素ガスの圧力などをパラメータとして,酸素欠陥の種類や量に対する軟X線吸収スペクトルを測定する予定であった.その酸素欠陥が存在する試料を作製する前に,薄膜表面の水や炭化物を取り除くために500℃程度の加熱処理を行ったが,炭素を取除くことができなかった.そこで,アルゴンスパッタによる酸素欠陥の生成を行ない,スパッタ時間をパラメータとして,軟X線吸収スペクトルを測定することになった. また,単結晶試料に関して,水素雰囲気中で600℃の加熱処理では,全蛍光収量による軟X線吸収スペクトルはあまり変化がなかった.そのため,試料加熱装置は当初の予定よりも高温(約950℃程度)で加熱処理できるものが必要となり,その装置の設計を行なった.
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今後の研究の推進方策 |
製作した試料加熱装置を用いて,真空中或いは水素雰囲気で加熱処理を行い酸素欠陥が存在する酸化マグネシウムの試料を作製する.また,薄膜に関しては,炭素に汚染されていない試料を準備し,加熱処理後アルゴンスパッタをして酸素欠陥を生成する.そして,加熱温度,時間,水素ガスの圧力やスパッタ時間をパラメータとして,軟X線吸収スペクトルを測定する.その結果から,酸化マグネシウムの酸素欠陥の種類や量と電子状態の相関を明らかにする.さらに,表面とバルクの電子状態の違いを明らかにする. 次に,酸素欠陥の種類や量が明らかになった試料に関して,軟X線吸収分光法による絶縁破壊過程のその場観察を行う.試料に電圧を印加することでどのように電子状態が変化するか,また絶縁破壊が起こる過程でどのように電子状態が変化していくかを測定する.得られたスペクトルの解析結果からどのようにして絶縁破壊が起こるか解明する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は真空中或いは水素雰囲気中で加熱処理するための試料加熱装置の製作及び薄膜と単結晶の購入のため使用する.また,研究成果を国内外の会議で報告するため,旅費として使用する.
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