研究課題/領域番号 |
23560034
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研究機関 | 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター |
研究代表者 |
小林 英一 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, ビームライングループ, 主任研究員 (80319376)
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キーワード | 軟X線吸収分光 / 絶縁体 / 欠陥 |
研究概要 |
本年度は,酸化物の絶縁破壊の原因である酸素欠陥に注目し,酸素欠陥の種類や量と非占有電子状態の相関について調べた. 最初に,軟X線吸収分光法と光電子分光法により欠陥が存在する酸化マグネシウム薄膜について研究した.欠陥の生成は薄膜を加熱処理した後,アルゴンスパッタにより行い,欠陥の量はアルゴンスパッタの時間で調整した.酸化マグネシウム薄膜の全電子収量法によるO K吸収端の軟X線吸収スペクトルにおいては,3つの強いピークが観測された.それらのピークはアルゴンスパッタ直後からブロードになり,スパッタ時間が増すとさらにブロードになった.また,Mg 1s光電子スペクトルの半値幅はスパッタの初期まで増加し,その後ほぼ一定の値になった.これらの結果から,スパッタの初期において,薄膜表面に非晶質層が形成されていることがわかった.また,Mg 1s光電子スペクトルの強度に対するO 1s光電子スペクトルの強度はスパッタ時間とともに減少した後,ほぼ一定の値となった.このことから,スパッタの初期において,酸素欠陥が生成されやすいことがわかる. 次に,軟X線吸収分光法を用いて酸化マグネシウム粉末について研究した.欠陥の生成は水素雰囲気中で2時間加熱することにより行なった.Mg K吸収端の吸収スペクトルは蛍光収量法により測定した.その結果,水素雰囲気中の加熱により吸収スペクトルのエッジが低エネルギー側にシフトした.これは酸化マグネシウムが還元され,酸素欠陥が生成したためと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は,軟X線吸収分光法を用いて酸化マグネシウムの酸素欠陥の種類や量と電子状態の相関を明らかにし,絶縁破壊過程のその場観察を行う予定であった.本年度は酸素欠陥が存在する試料の軟X線吸収スペクトルは得られたが,そのスペクトルの帰属やスペクトルが変化する原因について明らかにする必要があった.昨年度から薄膜試料や粉末試料に関しては,電子分光法でもチャージアップの問題が少ないことから,試料の同一点の光電子スペクトルと軟X線吸収スペクトルが得られる装置を用いて分析を試みている.本年度は光電子スペクトルの解釈は多くの文献で報告されているので,それらをもとに軟X線吸収スペクトルの解釈に力を注いだ.また,光電子スペクトル測定の結果から軟X線吸収スペクトルの解釈が難しいものに関しては,想定される構造の試料や同様な吸着系の試料のスペクトルを測定することで解明した.その結果,軟X線吸収スペクトルと酸素欠陥の相関に関する知見が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は軟X線吸収分光法を用いて絶縁破壊過程のその場観察を行い,得られたスペクトルの解析結果からどのようにして絶縁破壊が起こるか解明することである.その基礎データとして,酸素欠陥が存在する酸化マグネシウムの試料を作製し,その試料の軟X線吸収スペクトルを測定してきた.これまで,主に表面の欠陥に関して研究を行なってきたが,今年度はバルクの欠陥についても注目していく. また,それらの結果を基に,欠陥の存在する試料を作製し,試料に電圧を印加させながら軟X線吸収スペクトルを測定する.これにより,試料に電圧を印加することで酸素欠陥の電子状態がどのように変化するか,絶縁破壊が起こる過程でどのように電子状態が変化していくか明らかにする.試料に電圧を印加することで測定装置の真空が悪くなりマイクロチャンネルプレートを用いた検出器では解析には十分なスペクトルが得られない可能性がある.その場合は,蛍光の検出器として大気圧でも動作可能なSiフォトダイオードを用いた装置で測定を行う.Siフォトダイオードは可視光にも感度があるためノイズが多くなり,受光部が小さいため感度は悪くなるがスペクトルは得られる.また,試料に電圧を印加することで軟X線吸収スペクトルのノイズが多くなり解析には十分なスペクトルが得られない可能性がある.その場合は,予め電圧を印加し,絶縁破壊を起こした試料を準備し,それらの試料の吸収スペクトルを測定する.得られたスペクトルの解析結果からどのようにして絶縁破壊が起こるか解明する.また,当初は酸化マグネシウム薄膜及び単結晶の両方に関して,実験を行なう予定であったが,試料作製やマシンタイムの都合上いずれかの試料に対象を絞って行なう.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は試料や真空部品等の購入のため使用する.また,研究成果を国内外の会議で報告するための旅費,研究成果投稿料,研究成果報告印刷費として使用する.
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