研究課題
本研究の目的である「低消費電力、薄型大面積の安定で長寿命な真空紫外発光素子の開発」を目指し、真空紫外蛍光体の薄膜化技術開発とこれを用いた電界電子放出型発光素子開発研究を進めた。まずは前年度のNd3+:LaF3薄膜の作製に続き、紫外発光素子の蛍光体に用いるため、パルスレーザー堆積法を用いた、カリウムマグネシウムフロライド(KMgF3)薄膜を作製した。この薄膜に関しても、基板温度と照射レーザーの条件を制御することで、フッ化マグネシウム基板上にこれまでに得られているよりも高品質な薄膜作製を実現した。これらの薄膜からは、真空紫外領域である155nmと180nmをピークとする電子線励起発光スペクトルを観測している。次に、この薄膜を蛍光体とし、カーボンナノファイバーを電子源とする発光素子の実証実験を行った。カーボンナノファイバーは、グラフェン基板にアルゴンイオンを照射する手法を用いて作製した。この素子からも、上記したKMgF3からの電子線励起発光スペクトルと同様の真空紫外発光が得られた。さらに、この素子の電子の引き出し電圧及び加速電圧を変化させた際の動作特性についての評価を行い、マイクロワットレベルの出力を確認した。なお、この素子に用いた電極は、メッシュタイプのもの、スリットタイプのもの、金を薄く蒸着したものの3通りを試し、スリットタイプの電極から最も高い効率を得ている。この素子は、固体状態の蛍光体を用いた発光素子としては、世界最短波長で動作する素子である。
2: おおむね順調に進展している
申請時の平成24年度の目的は、紫外発光材料であるフッ化物の薄膜化技術開発を継続することに加え、その薄膜を用いた発光素子作製を行うことにあった。この目的を達成するため、パルスレーザー堆積法を用いてKMgF3薄膜の作製を行い、これらの薄膜から、真空紫外領域である155nmと180nmをピークとする発光スペクトルを観測した。さらに成膜時の基板温度制御とターゲットへの照射レーザーの条件を最適化することにより、発光効率の改善にも成功している。この薄膜の発光効率は、チョクラルスキー法によって作製した単結晶材料の発光効率と同等の値が得られている。また、素子作製についても、カーボンナノファイバーを電子源とする発光素子を作成し、この素子からマイクロワットレベルの出力を確認している。以上のことから、本研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
本研究の目的は、低消費電力、薄型大面積の安定で長寿命な真空紫外発光素子を開発することである。平成24年度は、発光素子に必要な蛍光体の薄膜化とこれを用いた素子作製技術の開発を行ない、真空紫外領域における電解電子放出型の低消費電力で薄型大面積な発光素子の可能性を示した。平成25年度は、発光中心を持つ真空紫外蛍光体を用いるなどしてさらに出力の高い発光素子開発を目指す。発光中心を持つ蛍光体としてはNd3+:LiLuF4とNd3+:LuF3を用い、これらの材料の薄膜化を行う。この2種類の蛍光体の中でも特にNd3+:LuF3は、真空紫外領域における高い放射線励起発光効率が報告されているが、融点よりも低温での構造相転移温度の存在による冷却過程における亀裂の発生が報告されているため、パルスレーザー堆積法の基板温度制御、照射レーザーのエネルギー密度等の条件を詳細につめることによる薄膜化技術の確率を目指す。発光素子については、電界放出素子(電子線発生部)や電極間に印加する引き出し電圧と加速電圧を上げる際に発生する放電の抑制を目指す。具体的には、素子構成要素であるスペーサーの均一性や素子を封入する真空度の検討を行う。
本研究では、申請書に記載したように、研究を進める上で必要となる大型の設備に関しては、極力、申請者の所属機関や全国共同利用研究所の共同利用機器を利用する。この方針は今年度も継続して守り、設備備品に関しては、共同利用機器を使用できないものに限って購入する予定である。物品費に関しては、次年度も継続して薄膜化技術開発を行うため、材料や基板を購入する。また、評価装置の改良のために、真空部品や光学部品を消耗品として追加購入する。 次年度も、学会での発表に加え論文雑誌への投稿を計画している。そのため、旅費及び投稿費、英文校正費にも研究費を使用する予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Thin Solid Films
巻: 534 ページ: 12-14
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Jpn. J. Appl. Phys.
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http://ono-lab.web.nitech.ac.jp/index.html