研究課題/領域番号 |
23560042
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
庄司 一郎 中央大学, 理工学部, 教授 (90272385)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | BBO / ウォークオフ / ウォークオフ補償構造 / 波長変換 / 紫外レーザ / 常温接合 / 第2高調波発生 |
研究概要 |
本研究はBBO結晶の新しいウォークオフ補償構造を常温接合を用いて作製し,従来デバイスの2倍以上の効率で高出力深紫外光を発生することを目的としている.本年度は新規ウォークオフ補償構造として,厚さ1mmのプレート4枚と,両端にそれぞれ厚さ0.5mmのプレートを貼り合わせた,全長5mmのデバイスを作製し,評価を行った. まず,精度±0.4度程度の位相整合角で切り出した,複数個の長さ6mmのBBOバルク結晶に対し,位相製合角を±0.1度以下で測定し,そこから厚さ1mmと0.5mmのプレートを複数切り出し表面粗さ1nm以下で両面研磨した.それらを結晶c軸の向きが面対称となるよう配置し,常温接合を用いて貼り合わせた.常温接合ではアルゴンビームの照射強度・時間,および,接合時の圧力等の最適化を図り,その結果,上記構造の新規デバイスを作製することに成功した. 同様の手法で,全て厚さ1mmのプレート5枚からなる全長5mmの従来型補償構造も作製し,さらに,全長5mmのバルクBBO結晶も用いて,三者の間で波長変換特性の比較を行った.測定用光源には波長532nmの連続発振緑色レーザを用い,レンズでビーム半径60um程度に集光し試料に入射した.その結果,入射パワー5.7Wのとき,バルク結晶からの第2高調波パワーが1.2mWであったのに対し,従来構造では1.4mW,さらに,新規構造ではバルクの約1.8倍となる2.2mWの紫外光出力が得られ,新規構造の有用性を確認することができた. さらに,発生した紫外レーザ光のビームプロファイルを測定したところ,バルク結晶からのビーム形状は顕著なウォークオフにより扁平な楕円だったのに対し,新規補償構造からは円形に近づいた横モードが得られた. 以上より,作製に成功した新規ウォークオフ補償構造は,波長変換効率,ビーム形状とも従来デバイスより改善されることを実証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,従来の2倍以上の効率で高出力深紫外コヒーレント光を発生する波長変換デバイスを実現することを目的としている.平成23年度は,そのようなデバイスを実現することが可能であることを実証するため,これまで作製されたことのない,BBO結晶を用いた新規ウォークオフ補償構造を実現することを最大の目標とした. 新規構造を作製するための1mm厚および0.5mm厚の結晶プレートの準備,常温接合プロセスの最適化を経て,目標とする全長5mmのデバイスを作製することに成功した.さらに,同じ長さの従来型の補償構造も作製し,バルクBBO結晶も含め,三者で波長変換実験を行い,新規構造がバルクおよび従来構造より紫外光出力が大きく,ビーム形状も改善されていることを確認した.したがって,当初の目標を達成し,研究は順調に進展していると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
厚さ1mmと0.5mmのBBO結晶プレートから構成される全長5mmの新規ウォークオフ補償構造を作製することに成功したので,今後はまず,厚さ0.4mmのプレート12枚と,その両端に厚さ0.2mmのプレートを付加した,全長5.2mmのデバイスを作製し,紫外波長変換効率およびビーム形状がさらに改善されることを確認する.上記構造を常温接合を用いて作製する際,従来は一枚プレートを接合するたびに真空チャンバを大気開放し,次に接合するプレートをセットする必要があったが,真空を破らずに連続的にプレートを供給する機構を導入することにより,接合の高品質化と作業の効率化を目指す. 波長変換実験では,発生する紫外光パワーが大きくなるに伴い,紫外光の吸収による発熱が生じ,位相整合条件から逸脱する可能性がある.そこで,デバイス温度を制御するホルダを作製し,温度を一定に保つことによって変換効率の低下を防ぐ. 最終的に,全長10mmのデバイスを作製することにより,入射パワー10W時に紫外光出力100mWを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が1万円あまり生じたが,これは,デバイス作製が比較的順調に進み,購入する結晶の個数が少なくて済んだためである. 次年度は接合するプレート枚数を増やすため,今年度よりも多くのバルクBBO結晶を購入する必要がある.また,各プレートの厚さを薄くする分,より高度な結晶加工・研磨技術が必要となり,加工・研磨費用が増える.したがって,次年度は結晶購入費用と加工・研磨費用に研究費の70%以上を費やす計画である.残りは,連続的プレート供給機構の動作テストを行うために使用するシリコン基板,デバイスの温度制御に必要な機器,そして,波長変換実験に必要な光学部品の購入に主に使用する予定である.
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