研究課題
中赤外量子カスケード・レーザ(QCL)のスペクトル幅は~10kHzと狭く、コヒーレンシーも高いので、その応用では戻り光耐性を明らかにしておく必要があった。そのために戻り光量と雑音を同時に測定する実験系を考案した。そして、小さな線幅増大係数と長共振器化によってQCLでは光通信用LDに比べて雑音が生じにくいことを定量的に明らかにした。本期間中の主目的はQCLからの出力光をアンテナ・プローブに照射し、近接場ラマン分光の感度を高めることにあったが、予備実験として進めた光アンテナの特性把握で新たな知見を得た。アンテナに垂直方向の電界分布や局在効果をこれまで実験的に調べる手段は無かった。そこでSi基板上に原子層堆積法(ALD)を用いてAl2O3層を20/40/60 nmと原子層オーダで積層した試料を作製し、顕微FT-IRで反射率を測定した。Si表面上の表面フォノン・ポラリトン(SPP)信号の強度変化を測定し、アンテナによる層厚方向の電界分布を求めようとするアイディアである。SPPの信号強度はAl2O3の膜厚増大と共に指数関数的に減少し、60nmでは見えなくなった。このようにアンテナの垂直方向の電界分布を実験的に求めたのは初めてである。顕微FT-IRによる観測では実際にはレーリー散乱も含まれているはずである。すなわち先ず、光アンテナによって表面近傍の入射電界が増大する。次にSi表面で吸収特性に応じた周波数依存性を持った分極が形成される。そして、これによって作られる電界が散乱電界を作り出す。その電界が光アンテナで増幅されて反射特性に現れる。このようなメカニズムでは、反射スペクトルには電界増強度の4乗成分が現れるはずである。レーリー散乱をファノ効果等で抑えた光アンテナを中赤外検出素子に応用すればこれまで課題であった中赤外域での高感度で高速な特性が今後、実現できるはずである。
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