研究課題/領域番号 |
23560044
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 実 近畿大学, 理工学部, 教授 (50388493)
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キーワード | ファイバ / レーザー / ファイバレーザー / 位相結合 / 高出力化 / レーザー加工 |
研究概要 |
昨年度の成果として、ファイバで構築されたレーザー共振器長25mに対して、1mm程度の長さ精度でファイバ長を制御可能となった旨を報告したが、それは実験結果から得られるスペクトルより推定されていたに過ぎなかった。そのため、今年度はファイバ長を正確に測定する技術の構築から開始し、新規な測定方法の開発により条長25mのファイバを10μmの極めて高い精度で評価可能となった。この測定方法は、一般的な測定器の組み合わせにより達成したものであり、本研究以外にも有効な技術と言える。 上に示した高精度なファイバ長の測定技術の構築により、位相結合状態に有るファイバレーザー発振器の条長測定を精密に行った結果、ファイバ長が予想を越えて大きく変動していることが、実験結果からの推定ではなく実測できた。それと同時に、変動量から変動の原因が室温の変動に起因することを確定し、光学系の温度安定化に必要な系の構築を開始した。これによる成果は得られつつあるが、安定化と同時にトラッキングが必要となる可能性も見えつつあり、ファイバ長を電気的に制御する技術の構築も開始している。 今年度の成果により、高出力を得るための位相結合状態を安定に得るための基礎技術が確立しつつあるが、上記の問題点の発見により、平成24年度の目標であるファイバレーザー装置出力の16波合成は構築できておらず、8波の合成ならびに高精度かつ髙安定な2波合成系の構築が進みつつある段階である。一方、平成24年度に解決を予定していた偏波スイッチングは、その原因が励起光の偏波状態に起因する、偏波依存利得と多くのレーザーの縦モード競合による偏波モード分離が原因であることが明らかとなっており、この点では先行的な成果が得られている。 これらの結果は、科学技術振興機構主催の展示会において発表しており、学会報告以外の手段による、産業面への成果還元を狙った動きも進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1,本研究申請時の予定として、平成25年度には最大8~16台のファイバレーザーの位相結合を実施する予定であったが、ファイバ長の変動が予想以上に大きかったために位相結合出力の不安定性が顕著であることが判明した。そのため、結合数を増やすよりも原因の究明を進めるべきと考え、最小目標値である8台の構築に留まっている。この点から当初の数値目標に十分到達できていないと判断し「やや遅れている」と自己評価した。 2,昨年度の時点で問題が予想されていた、ファイバ長の測定精度の低さを克服すべく、新規な測定技術を開発し、条長25mのファイバを精度10μmにて測定可能とした。この測定技術の開発により、高精度なファイバレーザー系が構築可能となったと共に、これまで他の実験結果から間接的に予想していただけであった不安定性の原因を直接観測できるようになった。 3,前記の測定技術を用いることにより、当初の計画に含まれていなかった新規な解決すべき事項として、温度変動による各ファイバレーザーの光路長(ファイバ長と考えて頂いて概ね間違い有りません)の独立した変動ならびにレーザーの増幅媒質となるErドープファイバの励起状態における光路長変動が発生することを明らかにできた。励起により生じる光路長の変動も、温度と共に解決すべき課題である。 4,前記の問題点を解決するために、来年度にかけて、以下の二点の開発を進めている。(1)ファイバ光学系全体の温度分布の低減と温度安定化による光路長安定化。(2)ファイバの長さ(光路長)を電気的に制御する技術の開発。 5,中間状態の成果であるが、平成24年12月に開催された科学技術振興機構主催のイノベーションフェア関西にて「位相結合を用いたファイバレーザーの高出力化」と題して発表し、ファイバレーザーの構築とファイバ精密制御技術の応用と技術開発状況を報告した。産業界との連携の準備も進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
1,当初の目標である、16台の位相結合に向けて研究を進める。平成24年度までに問題が明らかとなった、偏波モードスイッチングの解決ならびに位相結合される各ファイバレーザーの長さ(光路長)不安定性の解決に向けた、ファイバ光学系の安定化ならびにファイバ長の電気的制御技術の開発を進める。この技術は、今回進めている位相結合以外の面でも活用が存在する。 2,一方、8~16台を当初の目標としており、従来報告されていなかった最多合波数である16台のレーザーモジュールの位相結合は数値としてわかりやすいが、安定化に資する技術を確実に構築することにより、今後の実用化を着実に進めることが望ましいと考えており、場合によっては16という数値を狙わずに、確実に位相結合を得られる技術の構築を進める。 3,制御技術として、電気的なファイバ長の制御技術を構築するが、ここでは、これまでの文献などでファイバ長の制御技術して用いられているピエゾ素子を利用しない方法を開発する。ピエゾ素子は高速応答であるが、最大可変範囲が10ミクロンオーダーでありファイバレーザーの光路長制御には不十分である。そこで、従来技術の流用ではない、新規かつ安価、さらにある程度の応答特性を得られる方式を開発する。また、この技術の高出力海外の派生応用に関する検討を進める。 4,研究成果の一部を、米国で開催されるICALEO (International Congress on Applications of Lasers & Electro–Optics)などの国際会議において発表を行いたいと考えている。 5,また、これまでの成果として、特に、高精度な長さ制御技術ならびにファイバ長の高精度な制御技術はこれまでの文献で見られないものであり、特許出願を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、発注品目が全て確定した後に受け入れ利息48円が入金されたため、最終段階で48円の繰り越しとなっているが、計画通りに執行できている。また、これに起因する計画の遅れならびに次年度における予算執行の大幅な変更は実質的に生じない。また、該受け入れ利息を来年度に繰り越すことにより、利息を端数とも言える金額を有効に利用することが可能となる。
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