研究課題/領域番号 |
23560045
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐野 陽之 石川工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (80250843)
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キーワード | 光記録 / 超解像 / 第一原理計算 / 光学誘電率 / 連成物理シミュレーション |
研究概要 |
(1)大規模計算のための準備: 光伝播-熱伝導の連成物理シミュレーション等における大規模モデル計算を行うために本予算でワークステーション(16core, 512GBメモリ)を購入し、シミュレーションソフトウェアのインストール・設定等の準備を行った。 (2)高温・熔融状態の光学誘電率の第一原理計算: 第一原理計算ソフトウェアVASPを用いて、結晶状態InSbの電子状態(状態密度とエネルギーバンド図)と光学誘電率の計算を行った。通常良く用いられているGGA近似を用いた場合にはInSbのバンドギャップが再現されず、ハイブリッド関数であるHSE06やmeta-GGAのMBJを用いるとバンドギャップがほぼ実験と合うことが分かった。また、これらの近似を用いて計算した光学誘電率は実験データとよく合うことがわかった。溶融状態InSbの電子状態及び光学誘電率を求めるため、分子動力学(MD)による高温状態の再現の計算を行った。 (3)光伝播-熱伝導の連成シミュレーション: 前年度開発したシミュレーション・評価技術を用い、InSbを機能層とした場合の超解像現象の再現シミュレーションを行い、超解像に最適なInSb膜厚が20nm弱であるという結果を得た。これは対応する実験とほぼ合っている。また、微小ピット構造を考慮した再生シグナルのシミュレーションを行い、超解像状態の応答関数を求めたところ、2重ピークを有する特異な形状を持つことが示された。この応答関数をフーリエ変換した空間周波数スペクトルは、超解像なしの場合より高い周波数成分を持ち、より微小な構造を識別する能力を持つことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算ソフトウェアVASPの使用方法の習熟と適切な計算パラメーターの設定を見つけるために非常に多くの時間を費やすことになった。また、溶融状態の計算では原子数の多い大規模なモデルを用いるため計算時間が大幅に増えた。これらのことにより、高温・熔融状態の光学誘電率の第一原理計算に関しては、当初の計画より遅れている。 一方、光伝播-熱伝導の連成物理シミュレーションに関しては、当初の計画より進んでいる。特に再生シグナルシミュレーションから超解像の応答関数を求めることに成功するなど、計画を超えた成果が得られている。 以上のことから、各項目の達成度に凸凹はあるが概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
第一原理計算に関しては当初予定より遅れているため、対象とする材料物質を絞って計画を以下のように見直す。まず、溶融状態のInSbの電子状態及び光学誘電率を計算で求め、結晶状態との比較から光学誘電率の変化の起源を明らかにする。さらに、波長405nmにおける光学誘電率変化がInSbと逆の傾向を示すSbTe系物質の第一原理計算を行い、両者の違いと超解像に与える影響の違いを詳細に検討していく。InSbとSbTe系物質に関しては、連携研究者の桑原が溶融状態の光学誘電率測定を行っており、実験との比較から計算結果の妥当性を確認する。 光伝播-熱伝導の連成物理シミュレーションに関しては、シミュレーション手法と評価方法の開発が進み、モデル構築と計算パラメーターに関するノウハウの蓄積も充分進んでいる。また、超解像メカニズムの解明や最適構造の探索に関しても概ね完了している。そこで、H24年度の成果として得られた超解像の応答関数に関する研究を発展させるため、計算された応答関数の妥当性を確認する実験を進めると共に異なる条件での応答関数の変化や性質を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、比較的小規模な計算用ワークステーションを2台購入する予定であったが、計算効率を高めるために中規模なワークステーション1台を購入することにした。この変更によって予定していた支出が減ったため、約30万円を次年度に繰り越すことになった。この未使用研究費とH25年度の研究費を合わせると約80万円になるが、計算データを保存する外部データストレージの購入、計算及び解析のためのソフトウェアの購入・更新費用、研究成果の外部発表のための旅費として使用していく予定である。
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