研究課題/領域番号 |
23560049
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
伊藤 民武 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (00351742)
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キーワード | 強結合 / プラズモンポラリトン / 表面増強蛍光 / 超高速脱励起 |
研究概要 |
銀ナノ粒子2量体接点において生じているプラズモン共鳴場と分子分極との電磁相互作用はプラズモンによる大きな場の増強効果により、強結合系を形成している可能性がある。強結合系の形成は外場による物質の量子状態制御を可能とし光暗号、光回路など様々な応用に繋がる。本研究では強結合系の実証のために表面増強蛍光(SEF)のスペクトルを詳細に解析した。 SEFの減衰過程では、プラズモン共鳴による光のモード密度増大の効果によって電場増強効果と減衰速度増強効果の両方を受ける。電場増強効果と異なり減衰速度増強効果にはプラズモンの放射モードだけではなく非放射モードも関与できる。強結合場に存在する分子に対しては減衰速度増強効果は電場増強効果より100倍以上大きくなると予想されている。その結果、脱励起速度はフェムト秒程度になる。この超高速脱励起によって、遷移双極子からの放射すなわちSEFのスペクトルは自由空間のそれとは大きく異なる可能性がある。 本研究ではSEFスペクトルの詳細な検証により超高速脱励起による高振動準位からのSEF放射を捉えることに成功した。具体的には励起波長の高エネルギー化とともに蛍光スペクトルの広帯域化を再現性よく観測した。この様な励起波長依存性は通常の蛍光スペクトルでは生じない。この広帯域化はプラズモン共鳴によって生じた振動緩和速度を超える超高速脱励起によって説明できる。また、超高速脱励起とともに起きるアンチストークス蛍光抑制の観測した。 SEFの超広帯域化とアンチストークス蛍光抑制は銀ナノ粒子2量体接点においてプラズモン共鳴場と分子分極が強結合系を形成している有力な証拠である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銀ナノ粒子2量体接点おけるプラズモン共鳴場と色素分子分極との強結合系形成の実証研究において、強結合系形成の有力な証拠であるSEFの超広帯域化とアンチストークス蛍光抑制の観測に成功した。本観測結果を複数種の色素分子に対して検証し同様の結果を得た。この検証結果は銀ナノ粒子2量体接点おけるプラズモン共鳴場と色素分子分極との強結合系形成の普遍性を示唆している。 この結果、すなわちSEFの超広帯域化とアンチストークス蛍光抑制は銀ナノ粒子2量体接点においてプラズモン共鳴場と分子分極が強結合系を形成している有力な証拠を確認したと言える。従って研究目的は達せられたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
プラズモン共鳴場と色素分子分極との強結合系では、プラズモンと色素分子分極の位相緩和時間(数フェムト秒オーダー)以内に両者がエネルギーを交換する。この交換の結果、プラズモン共鳴場と色素分子分極の量子状態は混合し新しい状態を形成する。この状態は実験的にプラズモン共鳴の分裂(ラビ分裂)として観測可能である。本研究では強結合系の証拠であるこのラビ分裂の観測を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行するための備品や計算ソフトは現状ではほぼ揃っている。従って次年度はプラズモン共鳴場と色素分子分極との強結合系の観測のため、共同研究者の協力を得て実験を効率的に行う。よって研究費は消耗品と共同研究者の人件費に使用する予定である。
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