プラズモン共鳴によって銀ナノ粒子近傍の電磁場と分子分極との相互作用の強さは向上する。表面増強ラマン散乱(SERS)や表面増強蛍光(SEF)はこの電磁相互作用によって引き起こされる。しかし、プラズモン共鳴と分子との電磁相互作用は不明な点が多い。電磁相互作用が弱い場合はパーセル効果でSERSは記述できる。電磁相互作用が強い場合はプラズモン共鳴と分子が強結合系を構成している可能性がありSERSを単にラマン散乱の増強として扱えなくなる。このような弱結合と強結合の検証という観点でSERSの研究を行った。 SERS活性を有する単一銀ナノ粒子2量体を用いて強結合効果を検証する。第1の目標は、強結合に伴うプラズモンスペクトル変化の実証である。この実証はSERS失活過程におけるプラズモン共鳴スペクトルの時間変化観察として行う。この変化量は強結合による分子系とプラズモン系量子力学的混合状態の度合いを示す。第2の目標は、強結合効果を評価する物理モデルの開発である。 目標1について、SERS活性を有する単一銀ナノ粒子2量体を用いプラズモンと分子エキシトンとの強結合効果の証拠としてプラズモン共鳴スペクトルに現れるプラズモンスペクトル変化の観察に成功した。第2の目標について、結合振動子理論を応用し強結合効果を評価する物理モデルを開発した。更にSEFについては、強結合によって増強放射遷移速度が分子内電子緩和速度を超えるため孤立分子の蛍光とは大きくスペクトルが異なることを示した。
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