研究課題/領域番号 |
23560050
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
望月 博孝 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (60392669)
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キーワード | 高密度励起 |
研究概要 |
近年、耐熱性を有し、結晶化時に高密度励起下において自然放射増幅光(ASE)を観測可能なチオフェン/フェニレンコオリゴマー(TPCO)が、疑似連続光で励起しても発光能の劣化がないことが見出されている。これらの材料は今までのレーザー色素が抱えていた濃度消光という問題がない上、耐久性もあるため、現在まで有機レーザー色素がなし得なかった連続光励起による信号光増幅への期待がもてる。H24年度の目的としてTPCOの中でも緑色のASEを発するBP1Tを基板上に製膜した後、熱処理によって多結晶化させるこのプロセスを用いTPCOをコアの周りに製膜しコアに励起光を入射させASEが観測されるか確認することを挙げた。 そこでH24年度はTPCO系の蒸着膜の高密度励起下における発光挙動を評価した。蒸着膜の結晶ドメイン成長は前年度検討しており、そこで得た条件を用いた。基板上にBP1TおよびAC5を蒸着しBP1Tでは195℃およびAC5では165℃付近で熱処理することにより、前者は~300μmで後者30μm程度のドメインを有する結晶膜が形成できた。これら結晶膜にフェムト秒レーザーを照射してそこからの発光を観測した。発振周波数が1kHzという疑似連続的な励起レーザー光照射下で今回評価した2種類のTPCO系結晶膜で発光のレーザー閾値が観測されること、この実験を繰り返し行っても膜の発光に関する劣化がみられないことなどがわかった。これらのことからTPCO系結晶膜が優れた増幅活性剤となり得ることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は発振周波数が1kHzという疑似連続的な励起レーザー光照射下で今回評価した2種類のBP1TおよびAC5結晶膜で発光のレーザー閾値が観測されること、この実験を繰り返し行っても膜の発光に関する劣化がみられないことなどがわかった。これらのことからTPCO系結晶膜が優れた増幅活性剤となり得ることが示された。しかしながらこれらはプレートの石英基板の上に形成された結晶膜であり、計画時に示した石英ロッドの周りをTPCO結晶膜で評価したものではない。とはいえ、コアとなる石英ロッドの入手も行い、石英ロッドとの周辺部へのTPCO薄膜の形成は蒸着および熱処理も可能であることから大きな遅れとはならない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験で用いたBP1Tは緑色のASEを発するため、エネルギー移動を用いて赤色のASEを発光させる。DCMやDO11、BP3T(TPCOの内、赤色に発光する誘導体)を、BP1Tとの共蒸着による製膜、及びそれの熱処理による混晶の形成を目指す。その混晶においてBP1Tの励起子を赤色色素に移動させ、それによって信号光を増幅する。混晶なので分子間距離も短く、エネルギー移動は必ず起こる。 そこでH25年度は上記目標を鑑みて混晶の形成を行う。具体的には前述したように共蒸着後熱処理を行う。TPCOは微粉末を溶融しその後の徐冷によって高品質な結晶が形成できることが報告されており、BP1TやAC5などのTPCOとDCMやDO11などの赤色レーザー色素を溶融し徐冷することで混晶が形成可能だと推測される。
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次年度の研究費の使用計画 |
赤色レーザー色素やBP1Tなどの薬品や発光評価に必要な光学部品、蒸着などに用いる真空光学部品などの消耗品や成果発表と関連研究の調査による旅費、英文校閲や修理に基づく役務費などを計画している
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