研究課題/領域番号 |
23560053
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
四方 潤一 日本大学, 工学部, 准教授 (50302237)
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研究分担者 |
南出 泰亜 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (10322687)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / テラヘルツ/赤外材料・素子 / テラヘルツ波発生・検出 / 表面フォノン / 表面プラズモン |
研究概要 |
本研究では、負誘電率領域に現れる表面波モードを利用したテラヘルツ波-光波間の相互周波数変換に関する学理究明と応用基盤の確立を主目的とする。本研究の中心となる表面放射型テラヘルツデバイスを設計・製作するため、研究実施計画に沿って、本年度は本デバイスの動作原理である表面フォノンによるテラヘルツ波放射現象のFDTD(時間領域差分)解析を開始した。その結果、まず表面微細構造を付したデバイス構造において表面フォノン放射現象が起こることを確認し、FDTD解析の基盤を得た。さらに新知見として、放射現象の凹凸形状依存性、近接場のテラヘルツ電場の詳細(表面波の干渉により発生する表面電磁場パターン、微細構造のエッジ付近からの強いテラヘルツ波放射)、放射電磁場の近接場から遠方場への移行の詳細を明らかにした。これらの知見により、作製するデバイス構造の設計指針を得るとともに、金属導波路・結合デバイスを用いた表面放射観測の実験配置についても検討を進めた。また、本研究では固体表面に高精度な微細加工や金属薄膜を製作することが技術的課題となる。研究代表者の震災直後の異動に伴って、旧所属先(東北大学)でのデバイス製作が困難となったため、共同研究者と研究打合せを重ね、その所属先(理化学研究所)での高精度機械加工も検討し、テラヘルツ帯微細周期構造デバイスの試作に向けて準備を進めている。一方、光学実験に向けた準備として、研究代表者は異動先(日本大学)への光学実験装置の移設を完了し、デバイス励起用2波長光源およびテラヘルツ波光源の立上げを行った。また、共同研究者はニオブ酸リチウム非線形光学結晶を用いた高出力テラヘルツ波発生・検出の実験を通じて、テラヘルツ波と光波の混合(誘導ラマン効果)によるテラヘルツ波の光読み出しに成功し、次年度以降の実験への準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度である平成23年度の研究計画では、(1)表面放射現象の数値解析(2)表面微細構造の製作開始を予定した。上記の実績概要および以下の理由から、本年度の研究計画は、ほぼ予定通り進展したと言える。まず(1)の数値解析においては、デバイス設計の出発点となる表面フォノン放射のビーム結合特性および表面波共鳴現象の詳細を、FDTD解析により明らかにすることを当初の目標に設定した。この現象のFDTD解析は事例がないため、本年度はまず過去の実験報告例(赤外域)を再現することにより、数値解析手法の基盤を得た。さらに、実際に作製する微細凹凸形状への検討も含め、近接場から遠方場に至る表面波共鳴・ビーム結合特性を明らかにした。これによって、表面フォノン放射デバイス設計の基盤を得るとともに、次年度以降で予定しているテラヘルツ光学実験の配置について指針を得ることができ、次年度以降のデバイス製作と光学実験に必要な情報を得た。また、表面波増強に有望と考えられる表面プラズモンとの共鳴現象は、表面フォノン放射の実験的検証後に行う予定の第二ステージの研究テーマである。FDTD解析の開始として、本年度は当研究グループが実験的検討を行ってきたテラヘルツ帯表面プラズモン共振器(周期凹凸構造をもつ金属薄膜)の実験データの数値解析・再現に成功し、今後の研究展開に対する基盤を得た。一方、(2)の表面微細構造の作製開始については、震災や異動後の環境変化により遂行の困難が予想されたが、上述のように共同研究者の所属先における表面微細加工の見通しを得ることができ、既に高精度機械加工を行うための第一設計を完了し、デバイス試作を開始するところである。また、上述のように、次年度以降に予定しているテラヘルツ波発生・検出実験についても準備を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本年度の計画である(1)デバイス設計の数値解析、(2)デバイス製作の開始はほぼ予定通り進展し、次年度以降の光学実験についても準備を進めた。そこで、今後の研究内容として、当初の計画通り(3)表面テラヘルツ波放射実験(4)表面プラズモン共鳴実験(5)テラヘルツ波検出実験を順次推進していく予定である。特に研究遂行の鍵となるデバイス製作については、上記の理由により当初計画していた東北大学の微細加工施設に替わる製作環境が必要となった。しかし、上記のように理化学研究所での製作に見通し得ることができ、今後は本施設を利用して共同研究者と共にデバイス製作を進めていく予定である。加工を進める非線形光学結晶として、最初は加工が容易な無機結晶(ニオブ酸リチウム)における表面微細構造の試作を行う予定である。光学実験により、表面放射・光読み出しの基本動作が確認できれば、FDTD解析を用いた最適化設計・試作を重ねてデバイスの高性能化を進めるとともに、広帯域テラヘルツ波発生・検出用材料として有望な有機DAST結晶についても検討を進めていく。さらに、現在進行中の表面フォノン-表面プラズモン共鳴特性の解析と最適化設計に基づいて、金属薄膜の付与による結合効率の向上を研究していく予定である。また光学実験については、上記のようにテラヘルツ波発生やテラヘルツ波の光読み出しに関する基本的な実験系は既に準備できている。表面テラヘルツ波放射の検出においては、特に近接場のテラヘルツ波の放射パターンを明らかにするため、テラヘルツ波結合デバイスや導波路が不可欠となる。そこで、FDTD解析に基づく最適化に基づき、実験系の構築を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では当初の計画に沿って数値解析・最適化設計を進め、上記の方策に従って表面微細加工によるデバイス試作を行い、表面テラヘルツ波放射実験を行う予定である。数値解析やテラヘルツ光学実験の基本設備は既に保有しており、さらに異動に伴って必要性の出てきた常温動作テラヘルツ波検出部品や、励起レーザ用フラッシュランプ等の消耗品も初年度の研究費で準備した。そこで次年度では、当初に計画したように、デバイス製作に関する消耗品費として非線形光学結晶の材料費と結晶加工費を研究費の大部分を使用し、所望の高精度デバイスを実現するための試作を重ねていく予定である。また、光学実験においては近赤外の高出力パルスレーザ光を使用するため、誘電体ミラーや波長変換用の非線形光学結晶等の光学部品の損傷等も起こり得る。その消耗度に応じて必要性が生じた近赤外光学部品を中心に、光学部品を購入する予定である。さらに、初年度および次年度で得た成果を早期に積極的に発表するため、国内での学会発表(2回程度)の旅費使用を予定している。これに加えて、論文発表のための英文校閲費の使用も予定している。
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