再生可能エネルギーによる循環型エネルギー社会の構築のため、太陽エネルギー熱または廃熱等からの赤外光放射をエネルギー源とする熱光発電の実現を目指し、赤外光に有効な感度を持つ光電変換材料の検討を行った。 本研究では実用性の高い高周波スパッター法によるナノ結晶ゲルマニウム薄膜の作製を行っており、これまでに、水素とアルゴンの混合ガスを用いた反応性スパッター法により、光感度を持つナノ結晶ゲルマニウムの作製に世界で初めて成功している。しかしながら、スパッター法ではスパッター効率を維持するため、ある程度大きな運動エネルギーを持つアルゴンイオンが必要であり、そのため高い比較的プラズマ電位が必要である。その結果、試料付近のプラズマ電位も高くなり、試料側にシースで加速されたアルゴン等の正イオンの衝突損傷による材料特性の劣化が課題となる。 本提案ではスパッター効率を維持したままイオン衝撃を低下させるため、高周波遮断フィルターを介して高周波電源と並列に接続させた直流電源により負の直流電圧をターゲット電極に印加することを検討した。その結果、製膜種生成を司るターゲットとプラズマ間の電位差を低下させることなく、試料基板に対するプラズマ電位を低下させることに成功した。同条件で作製したナノ結晶ゲルマニウムにおいて、成膜速度が低下することなく結晶性の改善が見られ、生産性を維持したまま正イオン衝突損傷が抑えられてことが確認できた。 カソードへの直流電圧バイアス印加によるプラズマ電位低減を直接計測により確認したのは世界初であり、プラズマ物理やプラズマプロセス全般にとって大変有意義な成果である。また、これは本手法によるプラズマ電位の低下が製膜材料に与えるイオンダメージを抑えたことで結晶成長が促進したことを示す結果であり、プラズマ電位低減の有効性が改めて確認できた。
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