研究課題/領域番号 |
23560062
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
重原 孝臣 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60206084)
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研究分担者 |
桑島 豊 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40451736)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 数値線形代数 / ジョルダン標準形 / クロネッカ標準形 |
研究概要 |
本研究課題は、数値線形代数において最も難しいテーマに属する正方行列に対するジョルダン問題(ジョルダン標準形・基底の計算)および非正方ないしは正方な行列束に対するクロネッカ問題(クロネッカ標準形・基底の計算)に対する信頼性の高い数値計算アルゴリズムの確立、プログラム実装を目指すものである。本研究に先立ち、ジョルダン基底およびクロネッカ基底の再帰的構成に係る数学的枠組の確立、および、固有値が既知という制約条件下でのプレリミナリな実装は既に成されており、これらを前提に本研究を実施する。(ジョルダン問題についてはJSIAM Letters, Vol.2, pp.119-122で、クロネッカ問題についてはJSIAM Letters, Vol.1, pp.60-63で公表済み。) 平成23年度は、ジョルダン問題・クロネッカ問題の両方に対してユニタリー変換を活用した標準的な前処理の導入を行った。これにより、固有値を既知とする仮定の除去、また、演算量の大幅な削減が可能になった。最も重要な点は前処理後に得られる特殊な型の行列ないしは行列束に対する効率的なアルゴリズムの設計である。ジョルダン問題については、前処理によって得られるブロックシューア標準形(BSF)のジョルダン問題を効率よく解くためのアルゴリズムを設計し、代表的なアルゴリズムである Golub, Wilkinsonの方法との精度比較も行った。ジョルダン問題に関する成果の一部はJSIAM Lettersで公表した。クロネッカ問題については、前処理の結果得られる一般化されたブロック上三角行列束(GUPTRI)に対するアルゴリズムの検討を行った。平成23年度は、非正方行列束がgenericな標準形を持つ場合に対するアルゴリズムの設計を行い、この場合について高精度に標準形および基底が求まることを数値実験で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジョルダン問題については、「研究計画調書」中の「平成23年度研究計画」の柱である2項目「前処理の導入」「精度向上、悪条件問題への対応」をほぼ完了し、平成24年度の計画の一部についても既に一定の成果を上げている。また、成果の一部は査読付き学術誌に既に公表した。 クロネッカ問題については、非正方行列束がgenericな標準形を持つ場合について「前処理の導入」を完了し、前処理後に得られる行列束に対する効率のよいクロネッカ基底の計算法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度について。ジョルダン問題について、平成23年度に公表したブロックシューア標準形に対する効率のよいジョルダン基底計算アルゴリズムの改良を行う。特に、精度面での改良をはかる。具体的には、アルゴリズム中で頻繁に用いる特異値分解の際に設定する微小特異値除去のためのカットオフパラメータを数値解の精度に応じて動的に再設定して計算を続行する仕組みをアルゴリズムに導入し、これによって最終的な数値解の精度を保証する。クロネッカ問題について、平成23年度の中の成果を一般の場合に拡張する。すなわち、所与の行列束が一般のクロネッカ標準形を持つ場合について、前処理によって得られるブロック上三角行列束のクロネッカ基底を効率よく計算するためのアルゴリズムを設計し、実装する。余裕があれば、アルゴリズム中で頻繁に用いる特異値分解の際に設定する微小特異値除去のためのカットオフパラメータを数値解の精度に応じて動的に再設定して計算を続行する仕組みをアルゴリズムに導入して精度向上をはかる。また、ジョルダン問題・クロネッカ問題の両方に対して、悪条件問題を含む広範な例で提案アルゴリズム、および実装の有効性の検証を行う。 平成25年度以降について。平成25年度は、平成24年度までに確立したアルゴリズムに改良を加えるとともに、特異な一般固有値問題や多変量解析等への応用を検討する。平成26、27年度はアルゴリズムの並列化手法について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、重原(研究代表者)が大学運営業務等多忙のため外部研究発表の機会を得なかったこと、また、桑島(研究分担者)が独自に研究資金を獲得したために本課題の研究経費を必要としなかったこと等の理由で50万円弱の研究経費(直接経費)が残った。平成24年度の本課題の研究経費は、交付予定額と併せ、直接経費110万円弱、間接経費18万円となる見込みである。 直接経費は概ね以下のとおり使用する計画である。物品費(主として重原・桑島および課題遂行を補助する院生が使用するPCおよびソフトウェア)約50万円、外部発表のための旅費約20万円、プログラム実装等のために雇用する大学院生の人件費約30万円、その他10万円。なお、重原および桑島の使用内訳は概ね重原が90万円程度、桑島が20万円程度とする。
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