研究課題/領域番号 |
23560065
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
加藤 初弘 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00270174)
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研究分担者 |
加藤 初儀 苫小牧工業高等専門学校, 理系総合学科, 教授 (80224525)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 逐次伝達法 / 数値計算法 / 散乱問題 / マイクロ波 / 弾性波 |
研究概要 |
本研究の目的は,新しい数値計算法である逐次伝達法を,弱形式理論により再定式化するとともに,これをマイクロ波(ベクトル波)および弾性波(テンソル波)へ適用することにある.平成23年度は,理論的な定式化と計算環境の整備に並行して,実験の準備を行う計画であった. 数値計算のための環境整備は計画どうりであり,ワークステーションと数値計算のためのアプリケーションソフトの導入が完了している.また,これを用いた数値計算もプログラム化が進んでいる. 当初の計画では,ベクトル波について検討を始める計画であったが,実験の準備が予定していた以上に整ったので,次年度の実験の一部を前倒しで実施した.計画に一部変更はあるが,この実験を含む結果を応用物理学会欧文誌へ投稿した.また,この結果の一部を電子情報通信学会の平成24年春の総合大会にて発表した. 弾性波動に関する研究は,層状構造物において界面での局在波動が関与する現象の解明とこれを実験的に確認するための試料の作成を計画していた.円柱状の導波路に関する理論的解析が予想以上に複雑になったため実証実験の計画を遅らす必要が生じた.しかし,2次元近似でのモードP波・SV波の解析が完成し,数値計算を用いてモード変換を伴った散乱が存在する新しい可能性を発見できた.現在,この現象の実証実験に的をしぼり準備を進めている. 弾性波に関して,上述の他に次のような新たな進展もあった.非等質な弾性平板に注目すると,古典的なKichhoff理論を拡張できることを発見し,屈曲波の散乱現象に対して理論的にも美しい定式化を完成させた.この結果は,日本応用数理学会誌に投稿されており現在査読中である.逐次伝達法を用いた数値計算についても屈曲波散乱の解析を実施でき,この結果をもとに論文2編を作成中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的な定式化については,弱形式理論を用いた定式化を,導波管中のマイクロ波および弾性屈曲波の両者について実施でき,これらをまとめて2編の論文を投稿できた.さらに,弾性波については,屈曲波に対象を絞ったことで,定式化と合わせて数値計算をも実施することができた.これらの結果についても,現在2つの論文を作成中である.以上のことから,理論的な定式化および数値計算の検討に関しては,対象を絞りこむなどの変更があるものの順調である. 計算環境の計画は,計画通りに実施できた.また,これを用いた数値計算も,上述したように進展しており順調である. 弾性波の実験の準備については,現象の複雑さから試料の設計期間を延長し加工依頼の時期を変更しなければならなかった.しかし,金属材料の加工は,業者に発注することから高価になるため,十分に信頼性があるデータを蓄積して加工する必要がある.現在,予備的な設計図を得ているが,弾性波の複雑な干渉を避けて確実な結果を得るためにさらに詳細な解析に基ずいた設計が必要なことが分かった.貴重な予算を有効に使用するために,詳細設計の期間として次年度の前半を当てたいと考えている. 一方,マイクロ波に関する実験は,実験準備が比較的進んだために一部を早期に実施した.その結果も論文の一部として投稿されている.このマイクロ波実験の実績は,弾性波実験の準備に還元できる知見を含んでいる.実験の準備と実施については,マイクロ波と弾性波の計画を総合すると,計画の変更があったもののほぼ順調である.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に定式化を完成した理論および導入した数値計算のためのワークステーションを用いて,逐次伝達法のために汎用性のあるプログラミングを試作する.考えられる検討項目は次の2つである: i) 逐次伝達法の任意散乱体形状への対応 ii)ベクトル場やテンソル場などのための多成分化.この際,数式処理ソフトウェアによるプログラミング機能が役立つと考えている. 逐次伝達法と比較検討を行う数値計算のためのシステム環境を整備する.このシステムは,マイクロ波と弾性波を扱いうるマルチフィジックス環境が有効だと考えている.また,解析手法は既存の方法として良くし使用されるFEM(有限要素法)を用いる方法とする.この環境を用いて,FEMでは実施が困難な局在波が関与する現象の解析により逐次伝達法の有効性を確認したい.また,汎用性の高いシュミュレーション環境を生かして,実験試料の設計に生かすことを計画している. 弾性波に関する実験試料の準備として,現在の予備的な設計を更に進めて詳細な設計を終了し加工依頼を行う.このとき,新たに導入するマルチフィジックス環境を利用する.当初の計画では,研究対象である逐次伝達法を用いてすべての解析を実施することを考えていたが,マイクロ波と弾性波に対して汎用性があるプログラミングを作製することが,時間的に困難であること分かった.従って,弾性波試料の実験的条件の解析と設計は,マルチフィジックス環境が提供するFEMを用いて実施する.逐次伝達法は,FEMでの設計が困難な局在波が関与した現象の解析に用いることとする.このよう具体例として,屈曲波の散乱現象を新たな研究対象として注目する.この現象は,広い範囲で局在モードが励起される可能性があり,逐次伝達法の特徴を効果的に役立てることができことから,研究の進展が期待できる.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の繰り越し費用と平成24年度の予算の多くは,弾性波の実験を行うための試料の加工費にあてる. 実験試料の作製は,金属材料の加工を業者に発注することが前提である.現在大まかな設計を終えているが,貴重な予算を無駄にしないために,更に詳細な設計を行ってから発注する計画である.また,計測装置は,実験を行う周波数などの条件を満たす機器を準備する必要があるので,実験試料の詳細設計がある程度終えた段階で発注する.これらの内訳は次の通りである:i)8つの試料について100万円とii)計測機器の準備に51万円. 次に大きな研究費の割り当ては,数値計算用のシステムにマルチフィジックス環境を導入するためのものでほぼ62万円を予定している.導入するマルチフィジックス環境の仕様の詳細は,平成24年度の前期で実施し,後期には導入する計画である. この他に,学会発表や論文出版経費で,18万円を予定している.学会発表はほぼ予定通りに実施できるが,論文出版経費については,現在査読中の2編の結果にもよるので執行時期にに不確定な部分もある.しかし,平成24年度に少なくともあと2編の論文は投稿可能なので,出版経費は不足することがあっても過剰な可能性はないと考えている.そこで,他の経費との間で発生時期を調整する計画である.
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