研究課題/領域番号 |
23560065
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
加藤 初弘 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00270174)
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研究分担者 |
加藤 初儀 苫小牧工業高等専門学校, 理系総合学科, 教授 (80224525)
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キーワード | 逐次伝達法 / 数値計算法 / 散乱問題 / マイクロ波 / 弾性波 |
研究概要 |
本研究の目的は,新しい数値計算法である逐次伝達法を,弱形式理論により再定式化するとともに,これをマイクロ波(ベクトル波)および弾性波(テンソル波)へ適用することにある.平成24年度は,平成23年度に導入した計算環境の整備と実験を行う計画であった. 計算機環境については,ネットワーク化と数値解析ソフトウェアの整備を完成した.これにより新技術である逐次伝達法での解析結果を有限要素法のものと比較して検討できるようになった.さらに,実験試料の設計および実験結果の解析にも利用している. マイクロ波の研究を発展させ,局在波の効果を化学反応容器の設計に利用できた.研究結果の一部は,電子情報通信学会のマイクロ波研究会で発表した.また,局在波が関与して生じるFano共鳴がマイクロ波実験で観測されており,その解析も準備している. 弾性波に関しては,2種類の実験を実施した.ひとつは積層構造物でのP波とS波のモード変換に関するもの,もうひとつは円柱構造物での弾性波共鳴散乱に関するものである.前者は実験結果を解析している段階である.後者の実験結果の一部は理論的にも解明できたが,弾性波共鳴散乱は実験結果から抽出できず,新たな実験と理論の確立を検討している. 非等質な弾性平板の屈曲波についてはKichhoff理論を拡張し,テンソル基底を用いて座標変換の共変性を表現した.結果は日本応用数理学会誌に発表した.また,これに関連する論文2編を投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的な定式化については,ほぼ計画とおり進でいる.さらに化学反応容器への応用の可能性も明らかにした.具体的成果としては, (i)非等質な弾性平板でテンソル基底を用いた共変的運動方程式を提案し論文で発表した.(ii)弱形式理論を用いた離散化手法を応用したマイクロ波および弾性波の導波路中での散乱問題を3編の論文にまとめ投稿した.(iii)化学反応容器の逐次伝達法を用いた解析を実施し,電子情報通信学会のマイクロ波研究会でこれを発表した. 数値計算環境の整備計画は,予定通りに実施できた.これを用いた数値解析も,上記の論文作成に利用できた.とくに,手計算では数週間で行っていた数式処理作業を1日余りで実施でき,研究効率が大きく向上した. 弾性波のモード変換実験では,寄生効果のため予想した現象が観測できなかった.そこで資料を変更し,単純な応答が期待できる2種類の円柱試料に対して実験を行った.期待していた共鳴現象は観測できなかったが,共鳴のない資料では実験結果と理論の一致が得られた.現在結果を解析している. 弾性波実験の計画に変更が必要だが,マイクロ波に関する研究結果は化学反応容器に応用できる発見があり,総合すると研究はほぼ順調である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の主な目標は,(i)昨年度までの研究成果を論文で発表すること,(ii)弾性実験と理論解析を推進すること,(iii)逐次伝達法の新たな展開を探ることである. 弱形式を用いた方程式の離散化とこれを用いた逐次伝達法の研究は,新奇な概念のため論文審査委員がその把握に苦心している様子である.既存の数値計算である有限要素法との差別化として,局在波の抽出が可能なことを従来から指摘していたが,より強調する必要性がある.このため,投稿した3編の論文審査への対応にも本年度の多くの時間を費やす計画である. 弾性波実験については,円柱資料から得られた実験結果の理論解析を完成させること,および,弾性平板の屈曲波に関する実験計画を立案・実施する. 逐次伝達法の新たな研究として,(i)多様な空間メッシュへの対応,(ii) 3次元化,(iii) Fano共鳴の解析などを計画している.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(34,140円)は,物品の価格変動および業者の好意的な値引きなどにより発生した.この次年度使用額は,論文の出版経費の一部にする.現在投稿中の論文3編と新規に計画中の1編があり,査読の進捗などによりページ数の増加と出版経費の変動があり得るのでこれに対応する経費とする.なお,計画中の弾性波実験に関して,計測機器の予算を確保する必要も生じ得るので,状況に応じて予算配分を調整しつつ有効な執行を目指す.
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