研究課題/領域番号 |
23560067
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 豊 京都大学, 情報学研究科, 助教 (00169583)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シリコン貫通電極 / モンテカルロシミュレーション / 電気化学 / めっき / 添加剤 |
研究概要 |
本研究では、次世代高集積化LSIチップの実現を可能にすると期待されるシリコン貫通電極(through silicon via, TSV)作成のための動的モンテカルロシミュレーションシステムの開発と、それを用いたTSV作成の最適条件の探索を目的としている。今年度は、TSV の3次元実装のためのマルチスケールシミュレーションプログラムの開発を行った。モデルは、電極と硫酸銅溶液からなり、溶液上部はマクロスケールの拡散層とみなして電極近傍とは別に扱った。添加剤は、塩化物イオン(Cl)、抑制剤(PEG)、促進剤(SPS)、平滑剤(JGB)を取り入れた。電極表面での電析反応は、Solid-by-Solid モデルでモデル化する。PEG は電極表面に吸着し、銅イオンの析出を阻害する抑制剤として働く。SPS は、電極表面で触媒作用を持つ Thiolate を生成し、銅の析出を促進する作用を持つ。JGB も抑制効果を持ち、孔入口付近の銅の析出を阻害するとともに PEG を拡散律速にする作用をもつとした。また、高アスペクト比のTSV充填の場合、拡散層の濃度勾配が埋め込み性に大きく影響する。本研究では、拡散層を電極からの距離に応じていくつかの層に分割し、それぞれに異なる長さと時間のスケールを導入してマルチスケール化することにより、遅い物質移動を効率よく扱うよう工夫した。これにより、ナノオーダーの電極反応から数十ミクロンの物質移動まで同じ枠組みの中で扱うプログラムを開発できた。このプログラムを用いて添加剤や電析条件を系統的に変えたシミュレーションを行い、このシステムで添加剤の作用の実験結果が再現できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画であるマルチスケール動的モンテカルロシミュレーションの開発と、実験結果の再現の確認は達成できた。これらのシステムを用いたシミュレーションにより、硫酸銅めっきにおける重要な添加剤である抑制剤、促進剤、平滑材の効果をシミュレーションで再現できることも確認できた。また、シミュレーションの結果を視覚化するための、動画作成システムも同時に開発できたので、データ解析、特に添加剤の分布と表面形態の分析を効率よく行うことが可能となった。これらのシステムを用いれば、TSV作成の最適条件探索の有力な手段となると期待できる
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今後の研究の推進方策 |
前年の研究成果を基礎として、TSV 作成の最適条件を探索する。複数の添加剤の共同作用、攪拌の影響、溶融酸素による添加剤の分解に注目して、系統的にシミュレーションを行い、結果を解析して埋め込み条件を検討する。・添加剤の組み合わせ : 高アスペクト比の孔を完全に埋め込むためには、孔の上部の成長を抑制して底部の成長を促進する必要がある。(ボトムアップ)これらは、抑制剤、促進剤、平滑剤の共同作用によって達成されると期待される。前年度に調べた添加剤の効果の知識を基礎として、ボトムアップを実現するための添加剤の濃度、分子量の組み合わせを解析する。・溶融酸素による添加剤、イオンの分解 : 銅イオンが還元される際の中間生成物である一価イオンCu+ 、促進剤となる Thiolate は溶液中の酸素により分解する。これが、孔の内部と外部の添加剤の分布の差を生ずる原因ともなっている。本研究ではこの点を考慮し、溶液中の酸素の含有量とその時間変化をパラメータとして取り入れ、より現実的なシミュレーションを行う。・双パルス電流の印加とめっき時間の短縮 : 双パルスめっきは正電流と負電流を交互かける方法であり、銅イオンの濃度勾配を解消して拡散律速になるのを防ぐとともに、負電流の際に突起部が優先的に溶解するため表面が平滑化され、空孔を生じにくくする作用を持つ。また、めっき時間が長いと埋め込み性はよくなるが、半導体工学への応用という立場からは、短時間の埋め込みが要求される。本研究では、めっき時間も十分考慮した解析を行う。得られた成果は、国内の電気化学、表面処理関連の学会とアメリカ電気化学会(ECS)で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していた性能を持つワークステーションが当初の予定より安価で購入できたので、その差額分448618円を次年度に繰り越した。これを、シミュレーション結果の解析と動画化のためのデスクトップパソコンの購入にあて、最適条件探索の効率化を図る。また、成果発表のためのノートパソコン購入の費用と、日本電気化学会、アメリカ電気化学会における成果発表のための旅費を計上する。
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