研究課題/領域番号 |
23560069
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 義幸 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40314257)
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キーワード | 長距離相互作用 / 準定常状態 / 運動論 / 線形応答理論 / 臨界現象 / 国際情報交換 / フランス:イタリア |
研究概要 |
長距離相互作用を有するハミルトン系の典型的なダイナミクスは、熱平衡状態に至る前に準定常状態と呼ばれる状態に長時間留まることである。準定常状態に留まる時間は系を構成する粒子数の増大とともに長くなり、事実上準定常状態しか観測できないような系も存在する。実際、楕円銀河や木星の大赤斑などが準定常状態の例とされている。したがって、準定常状態を熱・統計力学的観点から研究し、またそのダイナミクスを調べることが重要となる。本年度の研究においては、長距離相互作用系に外力を加えた場合の、外力に対する応答を研究した。外力が小さい場合の系の応答については、線形応答理論という枠組みがあるが、従来の理論では応答を具体的に知るには大自由度系の運動方程式を解く必要があった。本研究では長距離相互作用系が1体分布関数方程式で記述されるという特長を活かして1体の運動方程式を解く問題に帰着させ、系の応答を明示的かつ具体的に計算することに成功した。また、周期外力に対する応答を観測することにより、共鳴吸収という観点から系の力学的特徴を抽出することも試みた。さらに興味深いことは、本研究で得られた理論を二次相転移を起こす系に適用すれば、統計力学的に予測される普遍的な臨界指数とは異なる臨界指数が得られることが示唆されたことである。この結果は、臨界指数の普遍性や、統計力学と運動論との関係について再考察を促すものであり、非常に重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、従来の熱・統計力学で仮定されていたエネルギーの相加性を満たさない系に対して、熱・統計力学的側面およびそのダイナミクスを研究するものである。本年度の目標は、系に熱力学的な操作を施すことを意識して、外力に対する系の応答を調べるものであった。この目標に対し、1体分布関数を用いた線形応答理論を構築することに成功し、その成果の一つとして臨界指数の普遍性について一石を投じる示唆が得られたという意味で、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、長距離相互作用系など、エネルギーが非相加となる系についてのダイナミクスと熱力学的側面を調べるものである。本年度に得られた臨界指数の普遍性についての示唆は非常に重要であるため、理論的な整備を行い、その結果を公表できるよう進めていく。また、外力がない場合のダイナミクスについても引き続き理論的な研究を進展させ、2011年に一次元系で得られた結果を二次元系や三次元系に拡張することや、銀河やオイラー流体など具体的な物理系への応用などを目指す。熱力学的側面についても、系と熱浴あるいは部分系同士を熱的に接触させるなどして、熱力学の基本法則が非相加系においても成立するのか、変更を受ける場合はどのような変更を受けるべきかを考察する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では国際的な共同研究が重要な位置を占めており、海外研究者と議論を重ねることが必要不可欠である。このため、海外への渡航および滞在のための旅費を計上している。また研究成果を発表したり周辺分野の情報を収集するための国内出張も必要となる。本年度においては、当初の予定にはなかったことであるが、海外から国際会議へ招待して頂いた。このため、日程の都合などもあり、国内出張旅費として予定していた研究費の一部を次年度に使用することとした。使用計画としては、主に海外渡航費用あるいは国内出張旅費として使用する予定である。
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