研究課題/領域番号 |
23560069
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 義幸 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40314257)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 長距離相互作用 / 準定常状態 / 運動論 / 臨界現象 / パターン形成 / 国際情報交換 / フランス |
研究実績の概要 |
重力や電磁気力など、自然界によく見られる力は長距離に及ぶ。これらの力によって支配される系は、長距離相互作用系と呼ばれる。本研究は、多粒子からなる長距離相互作用系を研究対象としている。多粒子からなる系は熱・統計力学によって記述することが期待されるが、長距離相互作用系では、従来の熱・統計力学の基本仮定の一つである相加性が成り立たない。またしばしば、熱平衡状態に到達する前に、準定常状態と呼ばれる状態に長時間トラップされることも知られている。よって、熱平衡状態および準定常状態に対する新たな熱・統計力学を、系の力学的特徴を取り入れた形で構築することが重要となる。この目標に向け、これまで熱平衡状態や準定常状態への緩和ダイナミクスや、それらに小さな外力を加えた時の応答を記述する線形応答理論を構築してきた。また理論の応用として臨界指数を求め、力学を取り入れた理論は、従来の統計力学が予測する値と異なる臨界指数を与えることを明らかにしてきた。本年度の研究においては、これらの結果をさらに発展させた成果を得た。一つ目の成果は、非線形応答理論の枠組みを構築し、臨界点における臨界指数を求め、これが再び従来の統計力学予測と異なる値となることを明らかにした。また、臨界点における臨界指数が求まったことにより、臨界指数間で成り立つと言われるスケーリング関係が、力学を取り入れた理論においても成り立つことがわかった。二つ目の成果は、準定常状態付近のダイナミクスについてこれまで得られた知見をオイラー流体系に応用したことである。これまでに、パターンのない状態に加えた摂動がパターンを形成し得ることが数値的に示されていたが、このメカニズムおよびパターンを生成する条件を理論的に提案することに成功している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、長距離相互作用系、およびそこで観測される準定常状態に対して、新たな熱・統計力学的記述を模索し、応用をも視野に入れることにある。多自由度系の記述に対して、従来の枠組みでも線形応答理論は一つの大きな柱となっているが、昨年度はこれを非相加系という枠組みの中で構築している。本年度はさらに進んで、非線形応答理論を構築することに成功した。線形応答理論では、比較的大きな外力に対する応答や、臨界点での応答を記述することができなかったが、これらの困難を解決した非線形応答理論は、非常に重要な成果であると言える。また、これまで主に磁性体モデルによって培ったダイナミクスに対する知見を基に、新たにオイラー流体系におけるパターン形成理論に貢献することができた。この研究成果は、非相加性というキーワードを軸に構築された理論が、多様な現象・系へ応用が可能であることを示したと位置づけることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究により、外部からの操作に対する系の応答を記述する理論を構築することができた。しかしながら、臨界指数が得られたのは、ある簡単なモデルにおいてである。臨界指数およびそれらの間のスケーリング関係が重要であるのは、系の詳細によらない普遍性が存在するからである。従って、これまでに得られた結果の普遍性を明らかにすることは重要な課題の一つである。そのための方策としては、まずこれまでに得られた線形応答理論と非線形応答理論を統一し、広いクラスの系に対してその理論の妥当性を検証し、統一した理論によって臨界指数を系統的に導出することが挙げられる。一方で、これまでに得られた知見の応用をさらに推し進めることも考えられる。準定常状態は熱平衡状態に比べて莫大な数だけ存在するため、従来の常識とは異なった現象が現れると期待できる。実際、これまでに、臨界指数が異なる場合があることを明らかにしている。このような新しい現象を発見し、そのメカニズムを明らかにしていくことも重要であろう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究においては、海外研究者との共同研究、研究討議が非常に重要な位置を占めている。そのため、当該年度内に二度の海外渡航を計画していた。しかしながら、そのうちの一つについては、本研究費による渡航日程を確保することが困難となったため、この渡航費用が次年度使用額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究の研究目的は斬新なため、国内には同様な研究を行っている研究者は多くない。そのため、本研究の推進のためには海外に渡航し、海外研究者と交流を持つことは非常に有意義である。そのため、主に海外渡航費用として使用する予定である。
|