研究課題/領域番号 |
23560076
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
黒田 雅治 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (60344222)
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キーワード | 物理数学 / ダイナミクス / 運動方程式 / 制御工学 / 安定判別 |
研究概要 |
当該研究で新しく提案した「マルチセンサ法」とは、付加的な特殊なアナログ・デバイスやデジタル・フィルタ処理などを必要とせず、既存のセンサ(変位計、速度計、加速度計など:ただし複数個)を用いて、構造物上の複数点での整数階微分(あるいは積分)応答から、それら応答信号の実係数の線形結合(=1次結合)として、他のある1点でのフラクショナル微分(あるいは積分)応答を求める手法である。 平成24年度は、カンチレバーの振動に関する分数階(有理数階)の微分応答を測定するための実験系の構築を目標とした。例えば、(1/n)階(ここでnは自然数)微分応答としよう。まず、系を記述する運動方程式を状態空間表示した時に現れるシステム行列Aを用いてマルチセンサ法のための拡大システム行列を求める必要がある。前年度の検討結果から、システム行列Aをn乗すべき場合にも(1/n)乗すべき場合にも対応できる実験装置を作る必要があることが判明していた。 非整数階微積分応答を利用した制御系の構築において、制御系の3要素、センサ、アクチュエータ、制御器のうち制御器の構築を優先させた。と言うのは、センサは既存のセンサを用いるということが本研究の特徴であり新規性はないし、アクチュエータについても同様である。したがって、新規性の源として残るは制御器である。制御器を実現するために、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)システムからなる分数階微積分制御装置を設計した。非整数階微積分応答の実現にマルチセンサ法を用いるため、制御系は多入力系となる。その制御系の安定性の解析に時間と労力を傾注した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初設計における問題点を洗い出すなど、設計に十分な時間を掛けたため、実験装置の製作が1年間では追いつかなかった。 また、制御器の設計を優先した結果、実験対象を構築するのが遅くなった。片持ち梁(カンチレバー)の加振方法、そして制御力の与え方に問題を発見した。具体的には、外乱及び制御力をカンチレバーに印加するアクチュエータの選定に問題が発生した。当初考えていた動電型加振器を使って外乱と制御力を与えるのではなく、スタック型の圧電素子をカンチレバーに接着し、それによって外乱と制御力を与える方が理論通りの制御系の実現につながると判断したためである。と言うのは、カンチレバーとの接触のさせ方次第では、システム全体のダイナミクスに動電型加振器の動特性をも含むことになるからである。本研究で制御対象としたいのは、カンチレバーそのものだけの動特性である。 また、ラプラス変換を施すとsの非整数階乗の項を含む運動方程式に対して、ラプラス逆変換を用いてMittag-Leffler(ミッターク・レフラー)関数を用いて解を記述した。当該手法を用いて構成した非整数階微積分応答との比較対象としては、このMittag-Lefflerを用いた解が相応しいと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
アクチュエータをスタック型圧電素子に切り替えて、とにかく実験対象を早く構築する。そして設計した制御器をDSPシステムにダウンロードして制御器の具現化を図り、制御対象を制御ループに組み込み、制御実験を開始する。振動するカンチレバーのフラクショナル微分応答をマルチセンサ法によって計測する。さらに、フラクショナル微分応答のフィードバックに基づく最適制御を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
制御器はDSPシステムにて構築し終えたので、フラクショナル微分応答をマルチセンサ法によって計測する実験対象たる片持ち梁、およびセンサ系、アクチュエータ系の構築のために使用する。さらに、フラクショナル微分応答のフィードバックに基づく最適制御を実現する。
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