研究課題/領域番号 |
23560079
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
上原 拓也 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (50311741)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フェーズフィールドモデル / 計算機シミュレーション / 分子動力学 / 相変態 / 計算力学 / マルチスケール解析 |
研究概要 |
本研究では,これまでにフェーズフィールドモデルに応力を連成することによって開発してきた計算モデルに対し,I) 異方性の導入,II) 二相界面領域での力学特性の表現,およびIII) 粒界の力学的挙動のモデル化,の3点に焦点を絞り,モデルの改良を進めることを目的としてきた.このうち,結晶異方性の導入については,Steinbachらによるマルチフェーズフィールドモデルを用いることによって,結晶粒ごとに異なる方位を導入した解析を可能とした.現段階では,結晶粒毎に異なる体積変化特性を与えると結晶粒分布に応じた微視的応力分布が生じることを示したところであり,結晶方位の相違による力学的な特性の違いまでは考慮できていないが,次年度以降に結晶塑性理論を導入し,結晶方位に基づく異方性を考慮した力学解析を導入するための基礎となるモデルを作成することができた.また,項目II), III) については,分子動力学シミュレーションによる数値実験を行い,界面をもつ結晶性材料の弾性係数,降伏現象,および塑性変形挙動について考察した.その結果,弾性特性については,両材料の原子間相互作用の相違の他,負荷方向と界面方位の相対的な関係によって著しく異なることを明らかにした.また,塑性変形特性についても,負荷方向と結晶方位の影響が明らかであるが,その挙動はきわめて複雑である.分子動力学シミュレーションでは,この複雑な現象がモデル内のどこに現れるかを予測することが難しいため,ある特定の箇所に変形の起点を誘導することによって,詳細な現象観察を容易にするモデルを作成した.次年度以降においては,このモデルを用いて,より詳細な変形メカニズムの解明とモデル化を図ることが可能であり,さらにその結果は結晶塑性解析モデルの導入に向けた基礎的なデータとすることができることから,研究全体の見通しがたったということができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究項目としては,I) 異方性の導入,II) 二相界面領域での力学特性の表現,およびIII) 粒界の力学的挙動のモデル化,の3点であり,このうち,初年度の計画としては,まず項目II), III) について,二相界面を有する分子動力学解析を実行し,界面領域を有する材料の力学挙動について数値実験的なシミュレーションを行うこととしていた.これについては,予定通り,界面領域をもつ材料の力学挙動の分子動力学シミュレーションを実行することができたが,さらに可能であれば実行することとしていた,フェーズフィールドモデルで用いる界面領域の特性式を導出するところまでは至らなかった.その反面,項目I) について,異方性導入の基礎となるマルチフェーズフィールドモデルに応力を連成した解析を実行することができた.これは当初予定よりも進んだ内容である.以上を総合的に判断して,研究目的はおおむね順調に達成しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度においては,引き続き,二相界面での力学特性の評価およびモデル化を進める.前年度に作成した分子動力学モデルを用い,系統的なシミュレーションを行うことによって,界面をなす材料特性と全体の特性の相関を明らかにし,界面領域の特性式を導出する.また,結晶粒界挙動の解析も本格的に開始する.現段階の解析モデルでは,結晶方位差をもつ場合の計算は行っておらず,これを行うことによって,外力が負荷されたときの結晶方位変化および巨視的な応力ひずみ関係に対する影響を明らかにする.さらに,結晶塑性論を導入したフェーズフィールドモデルによる解析モデルの開発を進め,微視的な結晶粒界挙動に基づいた定式化を図る.一方,これらの微視的なモデリングに基づく解析は,必ずしもこれまでに構築されてきたマクロ解析と一致する結果を与えるとは限らない.従来のマクロ解析は,経験的な実験事実に基づいたモデル化が行われており,この観点からの検証も不可欠となる.そこで,本年度から,別途申請の通り,巨視的な相変態解析の専門家である福山大学井上達雄氏を研究分担者に加え,これまでに蓄積された相変態に関する多種多様な現象とそのモデル化についての助言を受け,より高度なモデリングを行うこととする. その後,最終年度となる平成25年度には,フェーズフィールドモデルによる定式化を完成するとともに,本格的な有限要素解析を行い,構築するモデルの妥当性を検証し,圧延や熱処理など,実用的な工学過程のシミュレーションへの適用を図ることとする.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に購入した計算機を用いた解析を行う.大量のデータ処理が必要となるため,データ保存用機器を購入するほか,数値解析の高速化を図るため,最新のコンパイラおよびライブラリを導入する.また,数値解析モデルに関する研究調査とこれまでの成果発表のため,10月に台湾で開催されるThe 7th International Workshop on Modeling in Crystal Growthに参加する.さらに,研究分担者として追加する福山大学井上達雄氏について,研究打ち合わせの旅費とデータ交換用のハードディスクを購入する.
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