研究課題/領域番号 |
23560079
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
上原 拓也 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (50311741)
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研究分担者 |
井上 達雄 福山大学, 公私立大学の部局等, その他 (10025950)
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キーワード | フェーズフィールドモデル / マルチスケール解析 / 計算機シミュレーション / 計算力学 |
研究概要 |
本研究の目的は,複雑な微視組織を有する金属材料の変形挙動や力学特性を再現する数値解析モデルを構築することであり,フェーズフィールドモデルを中心としたモデリングを行ってきた.微視組織の複雑な形態形成過程と,巨視的な熱・力学的負荷に対する微視組織変化の解析に用いるフェーズフィールドモデルとしては,研究代表者による従来の応力連成モデルをマルチフェーズフィールドモデルに拡張することによって,様々な微視組織形態を扱うことが可能となった.特に,鉄鋼材料のパーライト組織や,様々な共晶系合金などに広く見られるラメラ組織を対象とし,共晶および共析反応によるラメラ形態形成過程の解析モデルの開発を行った.また,このようなラメラ組織内部に生じる応力分布や残留応力分布を求め,強度評価や力学特性評価につなげるモデリングを行った.さらに,マルチフェーズフィールドモデルに特有な結晶粒の粗大化現象について改良を行い,適正な結晶粒径分布の形態再現を可能とした.一方,具体的な工学プロセスへの応用例としては,熱処理による表面組織変化のシミュレーションを行い,表面の結晶粒分布や残留応力分布の解析を行った.界面特性の力学挙動については,原子スケールでの解析も行い,分子動力学法を用いて界面領域を有する材料の力学特性を調べた.これによって,界面の原子間相互作用と全体的な力学特性とを関連づけるメカニズムのモデル化が可能となった.なお,巨視的な変形挙動の解析には,当初,結晶塑性論を用いることを想定していたが,これについては,材料固有の条件が多数存在することとなり,総合的なモデリングが困難となるため,この手法は用いず,微視組織の形状や形態およびその分布と力学特性の関係に絞り込んだ解析を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における研究課題としては,複雑な微視組織形態をもつ材料の巨視的力学特性を再現する数値解析モデルを構築することであり,力学的な異方性を含む材料挙動の導入,界面領域における力学特性の表現,および結晶粒界をもつ材料の変形挙動のモデル化などを進めることとしていた.力学的な異方性については,マルチフェーズフィールドモデルの適用によって,様々な方向性をもつ材料組織を再現し,それらに負荷を加えることで,巨視的な力学特性の異方性を表現することができた.特に,ラメラ構造をもつ材料については,ラメラ組織の成長方向と力学特性の方向性について大きな異方的性質を再現した.また,界面領域における力学特性の表現については,分子動力学法によって,界面領域を有する材料の力学挙動を数値実験的なシミュレーションを行い,概ね当初の予定通りの分子動力学解析を行った.また,結晶粒界をもつ材料の変形挙動については,マルチフェーズフィールドモデルの改良により,力学的な負荷に伴う結晶粒形状の変化を再現するとともに,結晶粒形態の安定化を表現することが可能となった.最終年度において,熱処理条件と微視組織の関係,および微視組織と機械的特性の関係に関する実験的事実との比較を行い,信頼性の高い解析プログラムを完成するための数値解析モデルの基礎がほぼ構築できたといえる.なお,当初の研究計画に記述していた結晶塑性解析については,材料固有の条件設定が複雑で有り,モデルが過度に複雑になるため,本研究期間については行わないこととした.これは本研究の方向性を変えるものではない.以上を総合的に判断して,研究目的はおおむね順調に達成しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成25年度には,界面領域の力学特性と結晶粒界モデルの挙動について,分子動力学解析の結果および実験的事実との参照によって,フェーズフィールドモデルによる定式化を完成する.また,巨視的な力学特性に関する有限要素解析では,比較的大規模な計算を行い,実験結果等と比較することによって構築するモデルの妥当性を検証する.特に,熱処理による微視組織変化について,熱処理条件と微視組織の関係,および微視組織と力学特性の関係に関する多くの実験データを参照し,微視組織を介して熱処理条件と巨視的な力学特性の関係を再現するべく,フェーズフィールドパラメータおよび力学特性パラメータのフィッティングを行い,本解析モデルの妥当性を検証する.また,これまでの研究成果について国際会議での発表を行い,海外の研究者との意見交換を通して本解析モデルの問題点を明らかにし,改良を加えて解析モデルを完成する.本年度の後半には,研究成果を論文にまとめ,学術誌に投稿するとともに,一部はホームページで公開し,研究成果の公表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度までに開発したプログラムを用い,より大規模な有限要素解析を行うため,新規にワークステーションを購入するとともに,最新のコンパイラおよびライブラリを導入して計算の高速化を図る.大規模計算によって計算結果のデータも膨大となることから,大容量のデータ処理が必要となるため,データ解析用の計算機および大容量ハードディスクを購入する.さらに,計算結果の可視化にも,従来のソフトでは十分に対応できないため,可視化ソフトを購入する.また,これまでの成果発表のため,5月に北欧で開催される国際シンポジウム(The 3rd International Symposium on Cutting Edge of Computer Simulation of Solidification, Casting and Refining)および9月にスペインで開催される国際会議(12th International Conference on Computational Plasticity)に参加する.研究成果をとりまとめ,国際的な高い水準の学術誌に投稿するため,英文校正等にかかる費用も計上する.
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