関節軟骨内の力学・電気化学連成挙動が関節疾患の病因解明及び診断治療にとって不可欠となるが,関節解剖学的構造の複雑性及び力学・電気化学的連成挙動の難しさから,これまでの研究は試験片レベルの実験や簡単なモデルに対するシミュレーションに限られてきた.そこで本研究では関節の解剖学的構造と生理学的力学負荷を再現した軟骨内力学・電気化学連成挙動の動態解析手法の確立を目的とした。平成23年度の研究では膝関節の有限要素モデルを構築し,接触解析手法の改良を行った.平成24年度の研究では筋骨格系逆動力学解析手法により関節内筋力を推定し,より合理的荷重境界条件を関節有限要素解析に与える手法を確立した.また,関節軟骨の異方性と不均一性を考慮した力学・電気化学連成解析を行い,軟骨の異方性は軟骨内の応力、歪み、間質液及びイオン流れの分布に影響を及ぼすことを確認し、軟骨変性を想定した物性変化による影響を検討した。平成23年度ではこれまでの研究成果を踏まえ,実測による歩行動作及び床反力のデータを用いて,筋骨格系逆動力学解析により膝関節の筋力を推定し,これらを力学・電気化学連成解析における荷重境界とすることにより,実際の生理状態における軟骨内力学・電気化学連成挙動の空間分布と時間変化に関する解析を行った.解析ではこれまでに開発してきた手法の問題点を再確認し,改良を行うとともに,解析結果の妥当性を検証した.特に,申請者がこれまでに開発した力学・電気化学連成解析手法は自由度数が多く,大規模計算となることによる計算効率の低下を改善するため,新たな定式化を行い,より高度な解析手法を開発した.本研究により,関節の解剖学的構造と生理学的力学負荷を再現した軟骨内力学・電気化学連成挙動の動態解析手法を確立した.今後,臨床治験データと比較検証することにより,関節疾患の病因解明及び新たな治療法の開発に役に立つことが期待できる.
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