研究課題/領域番号 |
23560089
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木田 勝之 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00271031)
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キーワード | 疲労 / 非破壊検査 / 塑性変形 / 破壊 / き裂 / 磁場 / プローブ顕微鏡 |
研究概要 |
平成24年度の研究項目、「(1-2)高強度鋼の分極特性」と「(2-1)き裂進展の評価」では、主に、CALPHADシミュレーションソフトJMATproにより熱処理が構造に与える影響を解析した。その結果と、微細構造を比較し、分極の形成は、硬さに大きく影響することを実証することができた。ここでは、工具鋼に熱処理を行い、850℃の焼入れ・180℃での焼戻しを行った試験片と受入れ材を比較した。さらに、硬い組織を持つ場合、柔らかい組織の場合のそれぞれで、安定なき裂のと観察条件・磁場の観察条件を求めることができた。 磁場測定条件を最適化するために、H22年度のリファレンスデータをもとにして、消磁・着磁した試験片に対し、磁場分布計測を行った。(1-2)で得られた組織がき裂と磁場に与える影響を磁場分布から評価することにより、負荷された応力履歴を磁場測定で把握する技術開発に取り組んだ。磁化特性は脱磁用の小型装置を導入し、消磁と着磁による磁場の変化を測定した。 引き続き、「(1-3)磁化特性とき裂観察」と「(2-3)き裂の定量評価」では、き裂の進展試験を行い、き裂進展前後の基材のダメージをこれまでの磁場・CALPHADデータと比較した。き裂進展と磁場の関係、特に、応力拡大係数との関係を測定した結果、磁場強度の減少量は応力拡大係数の増加と線形関係にあることがわかった。 き裂による変化は、地磁気(東京で40~45mT)と比べても小さいが、以上の実験により、マイクロテスラ領域の磁場変化を利用することでき裂進展評価が可能であることを実証した。また、小さいき裂における磁場変化を測定することにより、き裂が進展するかしないかを、下限界近傍で観察するため、開口時のき裂先端磁場のその場観察システムを構築し、基礎実験に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の研究項目、「(1-2)高強度鋼の分極特性」、「(2-1)き裂進展の評価」、「(1-3)磁化特性とき裂観察」と「(2-3)き裂の定量評価」では、マイクロテスラレベルでの微小な磁場の可視化技術の開発に成功するとともに、このレベルでの磁場変化をとらえることにより、き裂が進展する様子を磁場の目で見ることができた。さらに、応力拡大係数と磁場強度の減少量には線形の相関性があることを定量的に示すことができた。 また、き裂開口時の磁場変化について、その場観察する基礎技術の開発に成功し、開口量と磁場の関係について基礎的なデータを取得した。 このように、き裂進展評価に重要な要素である開口量のその場観察に磁場を応用可能であることを示すことで、当初の計画に加え、新たな磁場顕微鏡の可能性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
き裂進展評価に際し必要となる磁場測定の性能は、常温で行われること、およびその特性の明確化であることを念頭に、計画項目の「(3)疲労評価法の一般化」では、引張り荷重化での磁場を測定する。この結果とH23年度に得た、組織観察結果をデータベース化する。これにより、評価方法の信頼性を実証する。具体的には、疲労の程度を評価可能な技術開発を行うため、き裂進展試験機を用いて、試験を行う。疲労過程で磁場測定を行い、磁場の変化から、疲労の程度を評価できるシステムを作る。疲労過程中でのき裂は、材料作成に従った進展を起こすことが予想される。そこで、方位性をEBSDにより観察し、これと、き裂の成長にともなう磁場の変化挙動から、応力拡大係数と磁場の関係を用いた、き裂に対する寿命評価システムを作る。最終的に、ひずみの状態と磁場の関係を可視化し、工具鋼の0.5mmき裂を例に、観察技術と磁場の変化挙動の関係から、室温大気中における高硬さ材のき裂停留の観察技術を確立する。これに加えて、H24年度に基礎実験に成功したき裂開口時の磁場のその場観察を進めることで、き裂進展時の磁場の特性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、試験片および、観察サンプルの作成費に用いる。 また、国際会議での招待講演が依頼されているため、海外への出張旅費に用いる予定である。
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