研究課題/領域番号 |
23560114
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
白寄 篤 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50272216)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ハイドロフォーミング |
研究概要 |
本研究は,小径管材(外径が数ミリオーダーの管材)のハイドロフォーミング(THF)において,管材と成形金型との間の摩擦力を積極的に利用する新たなTHF技術を開発するものである.成形形状の多様化に対応することができる技術と考えている.形状としては,まず手始めに,変形量(張出し量)を比較的容易に大きく加工することができる十字継手形状から着手しており,この形状成形での摩擦利用の有用性(不整変形を防ぎ,適切な肉厚分布を有する成形品を作製できること)を検討した.十字継手形状成形に必要な金型については,予定通り平成23年度に作製した.一方で,当初予定していた"めっき"加工による摩擦の検討実験は実施することができなかったため,摩擦の検討には,"めっき"の代わりにテフロンシートを用いた.銅管を素材に用いた十字継手形状成形の場合,テフロンシートによる管材と金型の間の摩擦低下が成形に不利に働くことが確認された.研究計画の当初には,摩擦の低下が成形に有利に働く(不整変形の発生を防ぐ)と想定していたので,結果的に予想とは逆の結果となった.なお,この実験結果の検討にあたっては,平成23年度に購入した『輪郭形状測定器用データ処理装置』を利用した.また,この検討結果については,学会誌への投稿論文で発表するための準備を進めている.一方,摩擦係数の推定には,コンピューターシミュレーションを利用する(実験結果と合わせ込むことで値を決める)ことを進めているが,現状では,シミュレーション結果と実験結果と乖離が大きい.変形量が非常に大きいことなどに起因すると思われ,現時点では,コンピューターシミュレーションに頼らずとも摩擦係数を推定することができる実験式の作成にも取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,平成23年度に管材や金型への"めっき"加工を予定していた(潤滑性を有する微粒子(テフロン,窒化ホウ素など)を分散した(少なくとも)2種類の無電解ニッケルめっきを試用する予定であった).しかし,実際には,東日本大震災の影響等で予定を変更した.この変更については,「研究目的」に対する本年度の達成度を低める方向であったと考えられる.一方で,成形形状については,平成24年度に実施予定の成形形状であったティー継手形状を平成23年度から早めに実験しはじめたため,"めっき"加工の先送りによる達成度の低下を補うことができたと考える.また,このティー継手形状成形においては,材質(熱処理)の異なるアルミニウム合金(A6063)管を用いた成形実験で,成形寸法に及ぼす材質の影響が従来からの知見とは異なる結果(加工硬化指数が小さい管材のほうが継手形状成形性は良い結果)として現れることが確認されており,予想外であったが,成形形状の多様化の観点からは好ましい新たな結果が得られている.さらには,研究成果の概要でも記述したように,摩擦係数の推定においては,コンピューターシミュレーション(有限要素法解析)に頼らずとも摩擦係数を推定するための実験式の作成にも新たに取り組み始めている.これらのことを総合的に考えれば,今後の研究を推進し,研究の目的を達成するための手段を多様化することができており,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には,まず,平成23年度に先送りした"めっき"加工による摩擦の効果について検討できるようにする.また,平成23年度に得られている新たな知見(摩擦力の向上が不整変形を抑制する方向で働く場合があること,および,加工硬化指数が小さい管材のほうが継手形状成形性は良い場合があること)をなるべく早期に学会誌への投稿論文で発表できるように実験結果を補充する."めっき"加工による摩擦の効果については,成形金型全体に"めっき"加工を施し,成形実験を始める.成形金型の一部への"部分めっき"については,当初から計画しているが,"めっき"を施す部分について当初の計画を若干変更する必要があると考えている.具体的には,摩擦を"有効に"利用することができる"めっき"の加工位置を検討することよりも,有効な位置であるか否かを問わず,"部分めっき"金型を用いて成形実験を実施すること自体を優先する.例えば,成形金型の半分のみを"めっき"加工して実験を行う.このようにすることで,成形結果に及ぼす"部分めっき"の影響が何らかに(例えば肉厚分布に)現れることを実際に早期に確認できることになる."部分めっき"加工位置の決定におけるコンピューターシミュレーションの位置付けは下がるが,『現在までの達成度(理由)』で述べた実験式を活用した検討を早期に進めることができるようになると考える.コンピューターシミュレーションで実験結果を予測することを先送りすることになるが,このことが研究の目的を達成することの支障となることはないとも考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費のほとんどは,成形金型への"めっき"加工に関わる費用とコンピューターシミュレーションソフトウエアのレンタル費である.平成23年度に使用することができなかった約6万円については,平成23年度に予定していた(東関東大震災関係で予定を変更した)"めっき"加工に関わる予算であるため,平成24年度の予算と合わせて"めっき"加工に使用する."めっき"加工については,潤滑性を有する微粒子(テフロン,窒化ホウ素など)を分散した無電解ニッケルめっきを中心に加工を専門業者に外注する.成形金型全体への"めっき"加工を実施するが,その後の研究の進み具合次第では,"部分めっき"も実施する.成形金型については,平成23年度の予算で作製したクロス継手形状成形金型を"めっき"加工する.ティー継手形状成形金型への"めっき"加工については,"めっき"加工にかかる費用(1回の単価×回数)次第ではあるが,新たに作製することも考えている.そうすることで,現時点で"めっき"加工を施していないティー継手形状成形金型をそのまま使用し続けることが可能となり,"めっき"加工の有無の実験結果の比較で問題が生じた際の再実験が容易となる.コンピューターシミュレーションソフトウエアについては,平成23年度に使用したものと同じソフトウエア(アメリカ,Livermore Software社,LS-DYNA)のレンタルライセンスを平成24年度の予算で継続する.
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