研究課題/領域番号 |
23560114
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
白寄 篤 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50272216)
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キーワード | ハイドロフォーミング |
研究概要 |
本研究は,小径管材(外径が数ミリオーダーの管材)のハイドロフォーミング(THF)において,管材と成形金型との間の摩擦力を積極的に活用する新たなTHF技術を開発するものである.成形金型の表面に“めっき”加工を施すことで管材と成形金型との接触状態を変えて,その変化を成形に利用することを目的としている. 平成24年度からは高い潤滑性を有する微粒子を分散した無電解ニッケルめっきを施した成形金型を用いて実験している.明らかとなったのは,今回使用した“めっき”では当初の想定とは逆に,管材と成形金型との間の摩擦力が高まるということである.つまり,成形に必要な軸押し力が大きくなり,成形される枝管の長さは短くなった.微粒子自体(窒化ホウ素および二硫化モリブデン)は摩擦力を下げるものであるため,その観点からすれば,管材の変形挙動に及ぼす“めっき”の効果は想定通りではなかった.しかし,平成23年度の検討結果(摩擦力の低下が成形に必ずしも有利に働くわけではないこと)も総合して考えると,成形中の不整変形の発生を抑制できる方向の結果となっており,今後はその観点から“めっき”を利用することを考えている. また,これまでに得られた研究成果については学会発表するとともに学会誌への投稿論文としてまとめた.それらの内容は,成形金型への“めっき”加工による摩擦力利用の前段階である,潤滑剤の種類を変えることで摩擦力を変えた場合の結果である.より詳細については,下記の“現在までの達成度(理由)”の欄に記載する通りである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに得られた研究成果を学会発表するとともに学会誌への投稿論文としてまとめた.学会発表ではアルミニウム合金管材を用いた結果を報告し,投稿論文では銅管材を用いた結果をまとめた.アルミニウム合金管材を用いた検討結果については,被加工材(管材)と成形金型との間の摩擦係数の推定ということで,初等解析に基づいた実験式の作成を行い,その妥当性を検討した.潤滑剤として二硫化モリブデンを使用した場合,実験結果(成形時の軸押し荷重の測定値)とほぼ一致する式となっており,この式による摩擦係数の推定値は2種類の成形形状(十字継手形状およびティー継手形状)の場合でほぼ妥当な結果となった.一方で銅管材を用いた検討結果については,管材に液圧(内圧)を加える直前の工程(液圧シールのための軸押し工程)が十字継手形状成形の結果に影響を及ぼし,さらにその影響は管材の初期肉厚や潤滑剤の種類(摩擦)の影響を受けることを明らかにした. 以上に述べた現在までの達成度をまとめると,管材の材質や成形形状が限られた範囲ではあるが,管材のハイドロフォーミングにおける摩擦係数の推定や成形結果に及ぼす管材の初期寸法や摩擦の影響について実験に基づいて明らかにできており,おおむね順調に進展していると考える. また,成形金型への“めっき”加工による摩擦の効果に関する検討については,平成24年度当初に計画した通り実験することができた.潤滑性を有する微粒子(窒化ホウ素および二硫化モリブデン)を分散した無電解ニッケルめっきを施したクロス継手形状成形金型を作製し,その金型を用いた実験を行った.しかし,成形時に必要となる軸押し荷重の再現性が,“めっき”加工を施さない成形金型を用いた実験の場合よりも不安定なため,不安定となる要因を明らかにし,安定した結果が得られる実験条件を見いだす必要性があると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には,まず,平成24年度に得られた上記の知見を適用できる範囲を明らかにする必要があると考える.また,成形金型への“めっき”加工による摩擦が管材の変形挙動に及ぼす影響について実験でさらに検討する. 平成24年度には,被加工材(管材)と成形金型との間の摩擦係数の推定ということで,初等解析に基づく実験式の作成を行い,アルミニウム合金管材を用いた場合には妥当性を確認することができた.しかし,“めっき”加工を施していない成形金型についてのみで確認できたことであり,“めっき”加工した成形金型についての検討は途中段階となっている.十字継手形状成形金型については既に平成24年度に“めっき”加工済み(成形金型全体への“めっき”加工済み)のものがあるので,それを使用した実験を進めているが,安定した実験結果が得られていない.今後は例えば,管材から作製する試験片の長さを変更したり,成形速度(軸押しの速度)を調整したりするなどの工夫により問題を解決したい.“部分めっき”加工も平成24年度の予算で対応済みであるため,この成形金型を用いた実験も行う. また,平成24年度からは,十字継手成形やティー継手成形において共通する変形部分である素管部(成形の前後で外径が変わらない管材の両端部近傍)について検討するための金型を作製しており,この検討も今後継続する. また,平成24年度には初等解析に基づく実験式による摩擦係数の推定に注力し,アルミニウム合金管材の継手形状成形については妥当な結果が得られている.その結果(軸押し荷重,成形途中段階での肉厚分布,成形形状,摩擦係数など)を活用してコンピューターシミュレーションによる予測の精度を向上させるようにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費のほとんどは,成形金型の作製および”めっき”加工(専門業者への外注)とコンピューターシミュレーションソフトウエアに使用する.コンピューターシミュレーションソフトウエアについては,平成24年度に使用したものと同じソフトウエア(アメリカ,Livermore Software社,LS-DYNA)を平成25年度の予算でライセンスを継続する.”めっき”の種類については,平成24年度から使用している微粒子(窒化ホウ素および二硫化モリブデン)を分散した無電解ニッケルめっきを平成25年度も変えずに検討する予定である.”めっき”の種類を変えなくとも,その効果は成形金型の形状や管材の材質・寸法などによって異なると考えている.また,成形金型全体へのめっき加工とするか,”部分めっき”とするかについては研究の進捗次第で考える.成形金型については,平成24年度における検討で作製した新たな金型(素管部について検討するための金型)をもう1セット作製する予定である.この平成25年度に作製する成形金型に”めっき”加工を施せば,管材の変形挙動に及ぼす”めっき”の有無の影響を実験で確認する事例を増やすことができる.
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