研究課題/領域番号 |
23560116
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長岐 滋 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30135959)
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研究分担者 |
大下 賢一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60334471)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 変態塑性 / 熱弾塑性構成式 / マルテンサイト変態 / パーライト変態 / 変態塑性係数 |
研究概要 |
ホットプレスなど高温下で相変態を生じる可能性のある変形過程のシミュレーションでは,多軸応力状態下での相変態の進行と変態誘起塑性変形を適切にモデル化し構成式として数学的に記述する必要がある. このために従前より所有していた2軸応力負荷試験装置を改良し,高温から冷却される炭素鋼(S45C材)について,引張り・ねじりの2軸応力を負荷した状態で,変態膨張,変態誘起塑性変形(変態塑性変形)を実験的に測定した.得られた実験結果では,引張りとねじり方向にそれぞれ生じた変態塑性ひずみと加えた応力の関係を,従来用いられているような単純な相当応力・相当ひずみの関係として整理することができなかった.このことは通常用いられている変態塑性のMises型の多軸構成式では変形状態を十分に表現できないことを意味しており,新たな構成関係を構築する必要があることが確認された(理論応用力学講演会において学会発表済). またホットプレス過程の力学的シミュレーションを目指して,第一段階として従来から用いられている変態塑性の構成式をユーザーサブルーチンとして汎用有限要素法プログラムに組み込んだ.作成したプログラムを用いて,高温状態から冷却される板材の3点曲げ変形のシミュレーションを実施した.計算結果によれば,板厚方向の温度分布のわずかな相違によって変態塑性変形によるたわみ量に大きな差異が生じることが示され,変態塑性によるたわみにばらつきが大きいという実験結果の傾向を表現できることがわかった(計算力学講演会において学会発表済).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に高温引張・ねじり二軸負荷試験装置の改良と変位計測手法の開発と有限要素法解析用ユーザーサブルーチンの開発に取り組んだ.・高温に加熱した後,急速に冷却される試験片の引張変形とねじり変形を同時に連続的に精度よく測定することは非常に難しい.今年度は従来から使用してきた変位測定装置を再度設計しなおした.具体的には試験片に接触させて試験片の変位をレーザ変位計に伝達する接触子の材質の変更,接触子を保持する弾性ヒンジ部分の形状の最適化と装置全体の軽量化などを行った.これにより引張り・ねじり両方向の変位そのものは精度よく計測することが可能になった.・改良した変位測定装置を用いて,2軸応力状態における加熱・冷却実験を実施することができた.本年度の実験対象はS45C材のパーライト変態であり,今後他の鋼種やマルテンサイト,ベーナイト変態などについて実験を行うためには,より冷却速度を向上させる必要があるが,まだ十分な速度が得られていない.また引張り変形挙動について,計測は可能になったものの実験結果にはばらつきがあり,これは引張り軸のわずかなずれにより曲げ変形が生じているためであることがわかった.したがってより精度よいデータを得るためには装置の改良をさらに進める必要がある.・変態塑性変形の構成式をユーザーサブルーチンとして汎用有限要素法プログラムに組み込むことができ,熱伝導と変態塑性の連成問題を解くことが可能になった.これを用いて板材の曲げの問題について高温から冷却した場合の変態塑性変形をシミュレーションできるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
・上述の引張り変形における実験結果のばらつきを少なくし,また冷却速度を向上させるために,2軸試験装置の改良を進める.具体的には主軸部分芯出し機構の更新,荷重負荷機構の更新(荷重負荷の自動化),冷却方法の改善などを含めて試験装置全体を再構成する予定である.・2軸試験装置を改良した上で,種々の鋼材について引張応力とせん断応力を負荷した状態で様々な冷却速度において冷却実験を行い,温度-伸び-せん断ひずみ線図を取得する.これによって相変態の構成式を誘導する上で必要な種々のデータが得ることができる.・2軸応力下での実験結果にもとづき,変態曲面のモデルについて,巨視的塑性論と類似な等価応力を用いて表現できるか検討する.また対応した等価変態ひずみについても検討すると同時に,塑性論における流れ則に相当する関係を導き,通常の弾塑性構成式を拡張する形で,新たに弾塑性・変態構成モデルを導く.並行して得られた構成式を汎用有限要素法に組み込み,相変態を考慮した3次元弾塑性変形解析を可能とする.・正確な構成式の同定には2軸試験機による多軸応力状態での実験が必要不可欠ではあるが,2軸試験機による実験は手軽に行えるものではない.そこで実用的な相変態解析システムの構築を目指して,より簡易に変態塑性現象を測定し構成式に反映させることができる3点曲げ試験装置の開発・改良を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は学会発表のための旅費が予定より少なくて済んだことなどにより,若干の未使用額(59,173円)が生じた.H24年度は,前年度未使用額を含めて,以下のような支出を予定している.・温度分布測定装置(約40万円):試験片の冷却方法を改善するためには,試験片の温度分布をより広範囲に精度よく測定する必要がある.このために簡易型の赤外線サーモグラフィ装置の購入を検討している.・2軸試験装置,3点曲げ試験装置部品と試験片の製作費用(約25万円):実験装置を改良するための各種の部品を製作する費用が必要となる.また2軸試験用の薄肉円筒試験片(肉厚1mm程度)は自製が困難なため,外注によって作製する.・パーソナルコンピュータ(約40万円):実験データ収集用ならびに有限要素法による数値計算用のPCの更新を予定している.・旅費(約20万円):学会発表のための旅費である.
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