研究課題/領域番号 |
23560119
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
酒井 克彦 静岡大学, 工学部, 准教授 (80262856)
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研究分担者 |
鈴木 康夫 静岡大学, 工学部, 名誉教授 (80091148)
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キーワード | 切削加工 / 深穴加工 / MQL / 雰囲気制御 / 工具寿命 |
研究概要 |
近年,自動車部品生産においてL/D10以上の深穴加工にソリッド超硬ドリルおよびセンタースルーミスト潤滑を適用し,高切削速度かつステップ送りの省略によって飛躍的な加工時間短縮を果たしている.しかし,本加工においては高価な油穴付きソリッド超硬ドリルの寿命が比較的短く,生産性を落とすことなく工具寿命の改善をするための技術開発が必要とされている.本研究室では,自動車用のクランクシャフトの深穴ドリル加工における工具寿命改善を目指し,切削油ミストを通常の圧縮空気に変えて不活性ガスなどの混合ガスで供給する方法について検討を行なっている.研究開始当初は,切削中に生じる金属新生面の酸化反応を抑制することによる加工点温度低減効果に注目していたが,実験を通して本手法は工具材料間の摩擦低減効果があることが明らかになってきた.ここでは,各種条件での工具摩耗状況および切削動力測定結果の比較や,切りくずや切削加工表面の元素分析や原子結合解析を通して,本手法が特異なトライボロジ効果をもたらすメカニズムについて検討を行った.今年度は通常のミストおよびCO2ガスミスト加工による切りくず表面の酸化状況などの差異を検証するためにEPMA(島津製作所EPMA-1720)による半定量分析を実施した.その結果、CO2ガスミスト深穴加工の切りくず表面のC量が通常のミスト深穴加工と比較して2倍程度である一方でO量は半分程度にまで減少していることが判明した.切りくずあるいは切削加工表面におけるCやOの原子結合状態を計測するためにXPS(島津製作所KRATOS XSAM800pci)による分析を行った.C1s軌道のスペクトル解析結果からCOOまたはC=O結合を表しており,O1sおよびFe2pの測定結果と合わせてCO2ガスミスト加工において加工面あるいは切りくず表面に炭酸塩(炭酸鉄)の存在が示唆される結果を得た,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究成果によって、CO2ガスミスト加工によって生成した加工面表面に炭酸鉄が生成していることを表面解析を通じて明らかにした.今回の研究目的であるガスミスト切削加工における切削工具寿命改善効果のメカニズム検証において、CO2ガスミスト供給によって加工点で切削誘起化学反応が生じ、仕上げ面に通常の切削加工では生成されない化合物が生成されることを明らかにすることが出来、その意味では研究目的の半分は達成したと見ることが出来る.その反面、現状では切削速度、送りに関して限られた条件でのみの検討にとどまっており、このような特異な化学反応を促進するような切削条件の実験的探索および、切削温度シミュレーション計算などの理論的取り組みの両面からの検証が不足していること、表面に生成している化合物の結晶構造同定や透過電子顕微鏡観察などを通じたさらなる解析、実用上重要な、N2ガス希釈CO2ガスを適用した場合のCO2ガス濃度と生成化合物量との相関に関する検討など、実用化を目指したさらなる検討が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究課題の最終年度であり、提案している方法を実際の生産現場へ適用する際に重要となる各種検討を実施する予定である.今年度の達成度で述べたように、本研究を通して明らかとなった切削工具寿命改善効果が作用する諸条件を明らかにすることが重要である.先に挙げた切削速度や送りといった切削加工の基本的パラメータに加えてドリルのコーティング種類、切削油材の種類、その他被削材料の炭素量や工作機械そのものの要因などについて系統的に実験を実施してデータを蓄積する.特に、これまで検討が不十分だった切削油剤については従来の植物油ベースのMQLの用油剤に加えて、溶存CO2量が格段に大きく、切削誘起化学反応が発生しやすいと期待される水ベースの切削油材の適用を検討する.特に、最近ゆ在メーカーから主にステンレス加工などのように加工点温度が上昇しやすい切削加工に有効とされる新しいミスト供給用水溶性油剤適用による切削実験を実施し、その切削性能の評価を実施する.また可能であれば昨年度の分析結果に基づいて仕上げ面表面層のマイクロX線回折や透過電子顕微鏡観察を通じて、切削誘起化学反応による生成物の結晶構造や結晶性の解析を実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は本年度同様、切削試験に必要な消耗品(切削工具、被加工材料、ジグ、切削油材、CO2ガス、熱電対 )として約40万円、XPSやEPMA分析を使用するための使用料金として約10万円、学生の実験補助やデータ整理に対する謝金がおよそ5万円程度、学会発表、国際会議発表に20万円程度を見込んでいる.
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