研究課題/領域番号 |
23560122
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
茨木 創一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80335190)
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キーワード | 工作機械 / 運動精度 / 測定 / 画像認識 / R-test |
研究概要 |
本研究の目的は,工作機械が自ら,自分自身の精度,及び加工物を含む加工環境をキャリブレーション(較正)し,それを最適に補正するという,工作機械の「自己最適化」という考え方を提案し,それを多軸加工機に適用する方法論を構築することである. 初年度はCCDカメラを用いた画像撮影を基礎として,工作機械の2次元運動精度を自律的に測定する方法を構築し,その測定性能を確認するための実証実験を主に行った.本年度は,対象とする工作機械を多軸工作機械に拡張し,その運動精度を自律的に測定する方法として,R-testと呼ぶ新しい測定法を構築した.日本の工作機械メーカは,より付加価値の高い,マシニングセンタ型の5軸加工機や,旋盤型複合加工機に主力を移しつつある.このような機械では,旋回2軸の運動精度が,工作機械の加工精度の支配要因となるため,工作機械自体が旋回2軸の運動精度を「自己最適化」するための測定法を構築することを目的とした. R-testとは,主軸に基準球を取り付け,その3次元変位をテーブルに固定した3つの変位センサで連続測定するもので,主軸・テーブル間の相対変位を高能率に,自動的に測定できる長所がある.従来のR-test装置は接触式の変位センサを用いるのに対し,よりセットアップが容易で,安全で,より自動化に適している非接触式のR-test装置を試作した.3つのレーザ変位計を用いて,測定誤差などの要因を補正した上で,R-test測定を行うためのアルゴリズムを構築し,測定性能を確認するための実験を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,レーザ変位計を用いて非接触式のR-test装置という,新しい測定器を試作し,その測定性能を確認するための実験を行った.接触式の変位計を用いる場合と比べて,球位置の変位を測定するためのアルゴリズムはより複雑になるが,新しいアルゴリズムを提案し,ソフトウェア開発を行った. R-test測定の結果を用いて,工作機械の旋回軸の「誤差マップ」を作成する方法論を構築し,測定・診断を行うソフトウェアの開発に取り組んだ.R-testを用いた「自己最適化」のひとつの適用例として,工作機械を連続運転するとき,定期的にR-test測定サイクルを実施することで,熱変形が工作機械の運動にどのような影響を及ぼすかを,工作機械の「誤差マップ」の変化という形で表現できることを,実験により示した. R-test測定を基礎とした旋回軸の運動誤差の「自己最適化」の方法論自体は構築でき,その効果の基本的な実験的な検証も行うことができた.ただし,これまではテーブル側に旋回2軸を持つ構造の5軸加工機(本研究室の既存設備)に対象を限定していた.機械の構造が変わると,それに応じて測定法や,診断のアルゴリズム等を変えねばならず,方法論の一般化が必要とされる.
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今後の研究の推進方策 |
多軸加工機の旋回軸は,組み立て誤差の低減が難しい場合が多いことや,運動精度の測定法が確立されていないことが原因で,直進軸と比べて運動誤差が大きいことが多い.旋回軸の運動誤差が,工具・ワークの相対変位に及ぼす影響は,旋回中心軸からの距離に比例して大きくなる場合が多いので,多くの多軸加工機で支配的な誤差要因となる.工作機械の「自己最適化」という考え方の適用が実用的に必要とされるのは,このような多軸加工機であると考える.次年度の研究の目的は,特にR-test測定を中心として,多軸加工機の旋回軸の運動精度を「自己最適化」するための方法論を完成し,かつそれを実用化するためのソフトウェア環境を構築すること,とする. 次年度の目標は以下の通りである. 1. R-test測定を基礎とした「自己最適化」を行うソフトウェアを開発する.これまでの研究成果をもとに,測定の実施,測定データの収集,誤差マップの構築,誤差原因の診断,誤差補正を行うためのデータの出力,を行うことがソフトウェアの主な機能である. 2.「自己最適化」の対象とする工作機械の対象を拡張し,検証実験を行う.これまでは,テーブル側に旋回2軸を持つ多軸加工機を対象として研究を行ってきたが,主軸側に旋回軸を持つ多軸加工機,旋盤型の複合加工機など,他の構造の工作機械にも拡張する.それぞれに適用な可能なソフトウェアを開発し,検証実験を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
主に,R-test測定を基礎とした「自己最適化」を行うソフトウェアを開発と,その実験による検証のために研究費を使用する計画である. また,これまでの研究成果を,国内・国外の学会で発表することや,論文誌への投稿を予定している.
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