研究課題/領域番号 |
23560135
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
青木 孝史朗 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (70262409)
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キーワード | 極限ひずみ加工 / マイクロ加工 / 切削加工 / 超微細組織材料 |
研究概要 |
平成24年度は,23年度の継続を行った.まず,半連続せん断変形加工機の改良を行った.これまでは断面7mm×7mmで2pass材までが限度であり,本研究を遂行する上でも供試材に対するせん断変形帯の導入形態の数や状況が不十分であると判断していた.しかし,せん断変形加工は,加工毎に試験片の両端に不均一変形域が生じるため,pass数を増加させると供試材全体が短くなってしまう欠点があった.そこで既設の半連続せん断変形加工機を改修し,断面10×10mmで最長250mmの供試材が加工できる状況に改善した.その結果,3pass材,4pass材の製造が可能となった.供試材はA6063-oのままであるが,ECAP材の断面積及び長さがこれまで以上に大型化できた事で,その後の切削に供する試験片が安定的に得られる事となった. 次に,二次元切削方法を突切りバイトへ変更した実験を実施した.研究の継続の意味から切削速度,切り込み深さの変更は行わず,すくい角のみを変更できるように種々のバイト(実際にはすくい角を変更した超硬チップ)を準備した.このバイトにより切削を行い,種々のせん断角を得られるようにした.結果,マクロ切削では,せん断変形加工によるせん断変形帯を一方向に導入するルートAにおいて,4pass材までの切削特性を調査する事ができた. せん断加工後の供試材において2,3,4passのいずれのpass数においても,組織観察から得られた変形組織の傾斜角度と切削によって生じるせん断角が一致する条件下において,切削抵抗が低下するという現象が確認できた.この結果は,軽金属学会第123回秋期大会において報告を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マクロ切削については実績の概要にも記したように,当初予定していた研究方針に則り,興味深い知見が得られ始めた.これらマクロ切削で得られた現象をより本質的に理解するためにも,次に続くミクロ切削及び切削シミュレーションが必要となる. ミクロ切削については,SEMの鏡筒内部へ設置可能なミクロ切削装置の動作確認作業を継続している.装置そのものは,過去に大気中において研究に用いられた記録を得ているが,実際にSEMへ組み込み,SEM内での作業を行ったという記録が見られなかった.また重要なデータとなる,切削力計測用の荷重計のデータをSEMの外部に取り出す部分が未完成である事も判明した.当面は本研究に即した形で,SEMに組み込むに至らずとも,通常の大気条件下でもミクロ切削条件下で実験を遂行できるように,調整を進めなければならなかったが,まだそこまで至っていない. 上記のマクロ・ミクロ切削に合わせて,その測定結果の妥当性,現象の理解という点から当初の研究方針にも挙げたようにFEMによる補完的な知見も必要である.切削現象に対応したFEMソフトウエアの選定は終了し,購入の打合せまで行っていたが,実際にソフトウエアを操作する当研究室側の体制が不十分で,実際に準備を始められるような状況では無かった事から,FEM購入は先送りすることにした.ソフトウエアには年間ライセンス料が課金されるため,あまり研究を進める事ができない状況では,ライセンス料として支出する研究費が無駄となる可能性があり,この判断に至った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究に対して研究遂行体制が十分とは言えない状況が続いてしまった.来年度は担当する人員を増加して対応し精力的に推進する予定である.以下それぞれの項目について説明する. まず,マクロ切削についてだが,概要にも記したように,せん断変形帯の傾斜角度と切削によって生じるせん断角が一致できる切削面での実験は比較的進んでいるが,それ以外の面や,また材料の異方性が比較的低いとされるルートCと呼ばれる状態の試験片についての切削特性については,知見が乏しい状態が続いている.実際のものづくりに,せん断変形加工を施した材料を供す場合を想定すれば,これらの情報は必要なものであり,データの収集が望まれる.ルートAの他の面における切削実験,およびルートCでの切削実験を継続する. ミクロ切削では,進捗に述べたようにミクロ切削用治具の改修が急務である.改修の必要な点について,技術的に解決が困難な問題が多くと考えているが,まずは当初の目的を完遂できるように装置の改良に努める.結果的にSEMを壊す事のなき様,最終的には大気中で高倍率のカメラなどで観察する形など,様々な方法について慎重に検討を進めていきたい. 切削シミュレーションについてはFEMソフトウエア Advantedgeを用いたシミュレーションを行う.メーカとの打合せで,現在流通している一般的な金属材料については,ほぼ全てのものの材料モデルを有しており,当然,本研究で扱っているA6063もある.ただし,特殊な材料モデル,つまりせん断変形により生じた異方性などを再現できるようなツールはないとの事である.これについては,むしろ通常の材料の状況を模擬し,その上でせん断変形された材料の組織状態をどの様に考えるのか,といった点から考察を深める情報を得たい.
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次年度の研究費の使用計画 |
マクロ切削においては,実験装置は消耗品程度で大きな支出は想定していない. ミクロ切削は,実験装置の改良費および工具を特注することが想定される.消耗品ではあるが,それぞれ高価になる事が予測される. 本年度の大きな支出は切削シミュレーションソフトウエア Advantedgeである.メーカーによると年間ライセンスは\1,125,000との事である.至急に購入手続きを済ませ,導入する予定である.
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