研究課題/領域番号 |
23560136
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
神崎 昌郎 東海大学, 工学部, 教授 (20366024)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | TiB2 / コーテッド工具 / 切削加工 / Ti合金 |
研究概要 |
本研究は,ホウ素含有コーテッド工具を用いることにより,航空機用材料として使用量が増加しているTi合金の切削加工において,高効率化および環境対応化を実現することを目的としている.次世代航空機での需要拡大が見込まれるTi合金は,熱伝導率が小さく,切れ刃温度が上昇しやすいとともに溶着性が高く,高効率加工が難しい材料である.本研究においては,Ti合金の高速加工・ドライ加工における熱的負荷増大が課題であることに着目し,高温潤滑性付与による工具表面の高性能化を通して新規加工技術の開発を目指すこととした.具体的には,ホウ素含有薄膜(TiB2,B4C を出発原料とするTiB2系薄膜,B4C 系薄膜)中のホウ素および酸素含有量を制御することにより,切削時の高温環境下において薄膜表面(切削点)でのガラス質固体の生成およびその溶融を促進させ,高温における工具刃先潤滑機能を付与する.これにより,Ti合金の高効率加工(高速加工・ドライ加工)に対応可能なコーテッド工具を創成することを目指すものである. 平成23年度は,ホウ素含有薄膜の機械的特性・高温潤滑性能に及ぼすホウ素および酸素含有量の影響に関する基礎的知見の集積に着手した.成膜はDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて行い,以下の結果が得られた. TiB2を出発原料とするTiB2系薄膜の結晶性は高く,B4C系薄膜に比べ高硬度で密着性に優れていた.特に化学量論比組成以上のBを含む場合には,高硬度化し,密着力の指標である剥離臨界荷重も増大した.また,成膜前のベースプレッシャーを低下させ,薄膜中の酸素含有量を3at%まで減少させることにより,硬度は35GPaまで上昇し,密着力もさらに向上した.すなわち,ホウ素および酸素含有量の制御により,Ti合金切削用コーティング材に必要な硬度・密着力を高い次元で満たす薄膜の創成は可能となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように,ホウ素および酸素含有量の制御により,Ti合金切削用コーティング材に必要な硬度・密着力を高い次元で満たす薄膜の創成は可能となっている.このこと自体が平成23年度の研究における主たる目的であり,研究が「おおむね順調に進展している」とする理由である. ただし,このように高硬度・高密着力のTiB2系薄膜を高温大気中で一定時間保持し,熱処理の前後あるいは熱処理条件の違いによる結合状態,結晶構造,表面形状の変化を評価する実験を行ったが,静的加熱によるTiB2系薄膜表面でのガラス質固体の効率的生成に有効な要因を洗い出すことはできなかった. また,ホウ素および酸素含有量が異なるTiB2系薄膜に対して,200℃(現有装置の最高試験温度)において荷重(P)および速度(V)を変化させながら摩擦係数を測定し,摩擦温度が上昇する高PV領域での摩擦特性とガラス質固体の生成および溶融との関係を明確にすることを試みた.しかし,無潤滑下でのTiB2系薄膜の摩擦係数は0.8以上と高く,低摩擦化が実現できていないため,摩擦試験時に脆性破壊が生じ,摩擦表面でのガラス質固体の有無を確認することはできなかった. 切削時の高温環境下において薄膜表面(切削点)でのガラス質固体の生成およびその溶融を促進させ,高温における工具刃先潤滑機能を付与することが本研究の最終目的であり,これにより,Ti合金の高効率加工(高速加工・ドライ加工)に対応可能なコーテッド工具を創成することを目指すことを考えれば,平成23年度の研究の達成度には多少順調でなかった部分があると言わざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は,TiB2系薄膜の密着性改善を一つの柱とする.「研究実績の概要」で述べたように,酸素含有量を低減させることが高硬度化・高密着力化に繋がると考えられるが,その一方で酸素含有量の増加はB2O3のようなガラス質固体の生成を促進する可能性がある.したがって,TiB2系薄膜において高温潤滑性の付与と密着性を両立させるためには,基板近傍のみTiリッチの組成とする「複層傾斜化」やTi中間層の形成が有効と考えられ,薄膜断面のTEM観察の情報を集積しながらその実現を目指していく.また,平成23年度の結果を踏まえ,表面近傍をホウ素リッチおよび酸素リッチの組成とし,表面で高温潤滑性能が効果的に発現する薄膜構造を創出する. TiB2系薄膜の高温潤滑性能および密着性が改善された段階で,実際の超硬合金製あるいはサーメット製スローアウェイチップにコーティングし,航空機用Ti合金の旋削加工(MQL切削,ドライ切削)を行い,各種加工条件において,TiB2系薄膜がどのような加工性能を示すのかを上記の加工性能評価システムを用いて明確にしていく.あわせて,一部応用が進められている耐熱性薄膜(AlCrN膜,TiSiN膜等)をコーティングした工具との加工性能の比較を行い,高温潤滑性能を有するTiB2系薄膜の特徴を顕在化させる.さらに,一連の旋削加工実験において,加工現象の解析(TiB2系薄膜表面でのガラス質固体の生成・溶融の有無の分析・観察,切削温度・切削抵抗測定,被削表面形状測定:申請設備を使用,切り屑排出状況・切り屑形状観察等)を進め,Ti合金の高効率加工(高速加工・ドライ加工)を実現するための最適薄膜組成(室温での低摩擦化を目指した炭素添加やTiB2+B4Cターゲットの使用等を検討予定)・最適薄膜構造を目指してスパッタリングプロセスにフィードバックさせていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
現在は高速精密旋盤を用いてTi合金の切削実験を行っている.ただし,実際の切削は旋盤を用いた「連続切削」だけではなく,フライス加工のような衝撃を伴う「断続切削」も広く行われている.このようなフライス加工でのコーテッド工具の有用性を確かめるため,フライス盤を購入させて頂くこととした. 消耗品としてはTiB2系薄膜の出発材料となるTiB2をはじめとするターゲットは必要不可欠であり,このターゲット購入費用を計上させて頂いた.また,成膜実験に用いるガスおよび基板,TiB2系薄膜をコーティングするスローアウェイチップ,そして被削材としてのTi合金は必須であり,平成24年度においても計上させて頂いた.
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