研究課題/領域番号 |
23560136
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
神崎 昌郎 東海大学, 工学部, 教授 (20366024)
|
キーワード | 切削加工 / コーテッド工具 / ホウ素 / 難削材 / Ti合金 |
研究概要 |
ホウ素含有薄膜の密着性改善を一つの柱として研究を進めた.酸素含有量を低減させることが高硬度化・高密着力化に繋がると考えられるが,その一方で酸素含有量の増加はB2O3のようなガラス質固体の生成を促進する可能性がある.したがって,ホウ素含有薄膜において高温潤滑性の付与と密着性を両立させるためには,基板近傍のみTiリッチの組成とする「複層傾斜化」やTi中間層の形成が有効と考えられ,薄膜断面のTEM観察の情報を集積しながらその実現を目指した.また,表面近傍をホウ素リッチおよび酸素リッチの組成とし,表面で高温潤滑性能が効果的に発現する薄膜構造を検討した. ホウ素含有薄膜の高温潤滑性能および密着性を改善した段階で,実際の超硬合金製およびサーメット製スローアウェイチップにコーティングし,航空機用Ti合金の旋削加工(MQL切削,ドライ切削)を行い,各種加工条件において,ホウ素含有薄膜がどのような加工性能を示すのかを加工性能評価システムを用いて評価した.あわせて,一部応用が進められている耐熱性薄膜(AlCrN膜,TiSiN膜等)をコーティングした工具との加工性能の比較を行い,高温潤滑性能を有するホウ素含有薄膜の特徴を顕在化させた.さらに,一連の旋削加工実験において,加工現象の解析(ホウ素含有薄膜表面でのガラス質固体の生成・溶融の有無の分析・観察,切削温度・切削抵抗測定,被削表面形状測定:申請設備を使用,切り屑排出状況・切り屑形状観察等)を進め,Ti合金の高効率加工(高速加工・ドライ加工)を実現するための最適薄膜組成(室温での低摩擦化を目指した炭素添加やTiB2+B4Cターゲットの使用)・最適薄膜構造を検討した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホウ素含有薄膜をコーティングした工具の加工特性に関する報告例は本研究以外にほとんどない.これはホウ素含有薄膜の摩擦係数が高いことが一因と考えられる.本研究では,Ti合金切削時の高温環境下においてガラス質固体を生成・溶融させることを目的としてホウ素を過剰に添加し,さらに炭素添加により摩擦係数を低下させることができており,研究はおおむね順調に進展していると言える. また,ホウ素含有薄膜コーテッド工具を用いてTi合金の切削実験を行い,切り屑排出性が改善するなどの加工性向上が確認できている.この結果も当初の研究目的を達成したものと言える.
|
今後の研究の推進方策 |
ホウ素含有薄膜中のホウ素および酸素含有量と摩擦係数低減の関係を系統的に明らかにすることは学術的にも意義は大く,今後の主たる課題の一つである.特に,ホウ素含有薄膜最表面でのガラス質固体の生成および溶融は確認できておらず,TEM観察等で確認することも計画している. また,本研究で創成するホウ素含有薄膜は高温潤滑性,硬度,密着性において代表的潤滑性硬質膜であるDLC膜を凌駕していることを示し,DLC膜の適用が不可能なNi基超合金等の耐熱材料(Ti合金を含む)の高速ドライ加工用コーティング材になり得ることを実証していく予定である.これは,加工時のエネルギー消費の削減や生産効率の向上に繋がるだけではなく,耐熱材料の加工コスト削減,さらには,耐熱材料の用途拡大に寄与でき,その意義は極めて大きい.また,ドライ加工の実現は,実際の作業現場の環境改善にも大きく貢献し,加工の分野でも課題となっている環境対応化を促進するものである.
|
次年度の研究費の使用計画 |
上述のように,ホウ素含有薄膜最表面でのガラス質固体の生成および溶融は確認できておらず,この確認のための観察等を一部の切削加工実験に優先させて実施したことが当該研究費が生じた理由である. 主たる研究費の使用目的は,ホウ素含有薄膜の形成に用いるターゲットの購入である.ホウ素含有量を系統的に変化させた薄膜を形成するためには必須である. また,切削加工実験に用いる超硬合金製およびサーメット製スローアウェイチップ,Ti合金等の被削材も購入予定である. さらに,薄膜の分析・観察にかかる費用も本研究費から出す予定である.
|