研究課題/領域番号 |
23560154
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 真二 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40313332)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 冷媒 / 潤滑 / 計測 / 共焦点顕微鏡 / レーザ誘起蛍光法 / トライボロジー |
研究概要 |
本研究では冷媒雰囲気にある潤滑膜内の膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定し,提案した冷媒溶解濃度変化現象の解析モデルの妥当性を検証する.そして,潤滑膜内で冷媒溶解濃度が減少,すなわち潤滑膜内で粘度が増加して,潤滑状態が緩和される摺動条件を明らかにして,冷媒圧縮機の摺動部の潤滑状態を最適にする潤滑設計の指針を示す. 今年度は潤滑膜内における膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定するために,共焦点顕微鏡とレーザ誘起蛍光法(LIF法)を併用した"潤滑膜内濃度分布計測システム"を開発した.このシステムでは,冷媒ガスが溶解した潤滑膜に対して垂直に紫外レーザ光(波長:405nm)を照射して,共焦点顕微鏡で潤滑膜内の膜厚方向の特定位置を観察し,そこから発せられた蛍光を高感度な冷却CCDカメラで撮影して,得られた蛍光強度から冷媒溶解濃度を求めることができる. 市販の共焦点顕微鏡は大変高価なため,汎用のレンズ群,ピンホール,LEDライト,紫外レーザ等を組み合わせて自作し,費用を抑えた.また,共焦点顕微鏡の対物レンズには,耐圧窓越しに潤滑膜が観察できるように作業距離が長く,またミクロンオーダーの潤滑膜内を十分な空間分解能で観察できるように焦点深度が非常に浅いものを用いた.対物レンズは光軸方向にピエゾで駆動されるステージに取り付けられており,100μmのストロークを2nmの分解能で移動させることができる.蛍光は潤滑油の自家蛍光を利用する予定であったが,蛍光強度が微弱であったため,蛍光剤としてクマリン30を潤滑油に添加することにした. また,本計測システムを用いて,高圧容器内にある既知の濃度で冷媒ガスが溶解している油膜の蛍光画像を撮影し,得られた蛍光強度から冷媒溶解濃度が求められることを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は,冷媒雰囲気にある潤滑膜内の膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定し,提案した冷媒溶解濃度変化現象の解析モデルの妥当性を検証すること,そして,潤滑膜内で冷媒溶解濃度が減少,すなわち潤滑膜内で粘度が増加して,潤滑状態が緩和される摺動条件を明らかにして,冷媒圧縮機の摺動部の潤滑状態を最適にする潤滑設計の指針を示すことである. この研究目的に対して,現在までに,潤滑膜内における膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定するための共焦点顕微鏡とレーザ誘起蛍光法(LIF法)を併用した"潤滑膜内濃度分布計測システム"の開発を行ったが,本システムの冷媒溶解濃度の測定精度と空間分解能(焦点深度)の確認がまだ完了していない.まず,ピンホールを取り付けない状態で,既知の濃度で冷媒が溶解している潤滑油の蛍光画像を撮影し,撮影画像の蛍光強度から冷媒溶解濃度が求められることは確認できた.しかし,ピンホールを取り付けた状態では,ピンホールの穴径が12.5μmと非常に小さいために,視野が大変狭く,測定対象を正しく捉えるのが困難であった.また,ピンホールを取り付けたときに想定される本計測システムの焦点深度が1μm程度と非常に浅いために,従来の焦点深度の計測方法では計測できなかった.この2点が今年度達成できなかった点である.
|
今後の研究の推進方策 |
前年度達成できなかった"潤滑膜内濃度分布計測システム"の冷媒溶解濃度の測定精度と空間分解能(焦点深度)の確認を完了させる.そのために,ピンホールの改良を行う.現在のピンホールは小さな穴が1つだけ開いているため,視野が非常に狭く,測定箇所の確認が困難である.そこで,対物レンズの視野全体に多数のピンホールを開けて,測定箇所が確認できるようにする.また,空間分解能(焦点深度)の確認は,対物ミクロメータをプリズムに固定して45度傾け,これをピエゾステージで対物レンズを光軸方向に微小移動させながら観察し,ピントの合う範囲を計測することにより行う. また,今年度は冷媒雰囲気下で形成された潤滑膜を外部から観察できる"冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置"を開発し,前年度に開発した"潤滑膜内濃度分布計測システム"を用いて,HFC系フロンおよび自然冷媒の圧力雰囲気で,摺動部の接触域入口における潤滑膜内の膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費で,冷媒雰囲気下で形成された潤滑膜を外部から観察できる"冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置"を開発する.この装置は冷媒ガスと潤滑油が入った耐圧容器内に,鋼球または円筒/ディスク型の摺動試験機が設置されている.ディスクは摺動試験片と観察窓を兼ねており,この窓から摺動試験部に形成された潤滑膜を共焦点顕微鏡で観察する. また,"潤滑膜内濃度分布計測システム"および"冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置"を用いて,HFC系フロンおよび自然冷媒の圧力雰囲気で,摺動部の接触域入口における潤滑膜内の膜厚方向の冷媒溶解濃度分布を測定する.まず,過去に行った顕微FT-IRを用いた潤滑膜内の平均冷媒溶解濃度の測定結果と比較して,本測定方法の妥当性を検証する.さらに,すべり速度,冷媒のバルク濃度等の摺動条件を変化させて実験を行い,各パラメータが潤滑膜内の膜厚方向の冷媒溶解濃度分布に与える影響について調べる. なお,今年度の執行額に残額が生じたのは,年度末に購入した物品が3月中に納品はできたが,支払いは4月になったためである.
|