研究課題/領域番号 |
23560154
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 真二 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40313332)
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キーワード | 冷媒 / 潤滑 / 計測 / 共焦点顕微鏡 / レーザ誘起蛍光法 / トライボロジー |
研究概要 |
今年度は冷媒雰囲気下で形成された潤滑膜を外部から観察できる“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”を開発した.本装置はボールオンディスク型の摩擦試験機を耐圧容器内に格納したものである.ボールには鋼球を使用し,マグネットカップリングを介して外部からサーボモータで駆動した.ディスクは摺動試験片と耐圧窓を兼ねており,透明で耐摩耗性のあるサファイアとフッ化カルシウムを使用した.ディスクは2つのベローズシールでシールされたディスクホルダーに固定されており,これをばねで引っ張ることで鋼球/ディスク間に荷重を与えた.また,鋼球には回転振れがあるために,膜厚方向の測定位置が変動する問題がある.そこで,鋼球の駆動軸の回転角度をギャップセンサで計測して,駆動軸の回転周期と同期するようにレーザパルス光を照射し,常に鋼球表面の同じ場所のみを測定できるようにした. 次に,前年度に開発した“潤滑膜内濃度分布計測システム”の共焦点顕微鏡の改良を行った.ピンホールを通じて得られた画像が非常に暗かったため,ピンホール前後のレンズの開口数を大きくして明るい画像が得られるようにした.また,ピンホールがあるために視野が非常に狭く,測定箇所の確認がこれまで困難であった.そこで,“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”で形成された潤滑膜に白色光源を照射して干渉縞を作り,これを目印に位置決めをした後でピンホールを取り付けることにより測定箇所の把握が可能になった. さらに,“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”と“潤滑膜内濃度分布計測システム”を用いて,潤滑膜内の冷媒溶解濃度の測定精度を検証した.その結果,測定精度は±1mass%程度であった.これは過去に顕微FT-IRを用いて測定された潤滑膜内の冷媒溶解濃度減少よりも小さく,潤滑膜内の冷媒溶解濃度分布測定に十分な測定精度であることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”は計画通りに開発できた. ・前年度に開発した“潤滑膜内濃度分布計測システム”の冷媒溶解濃度の測定精度は潤滑膜内の冷媒溶解濃度分布測定に十分であることが確認できた. ・今年度は“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”と“潤滑膜内濃度分布計測システム”を用いて,潤滑膜内における膜厚方向の冷媒溶解濃度分布測定を行う予定であったが,潤滑膜内の各深さ位置で冷媒溶解濃度と蛍光強度の関係を測定する際に,潤滑油に溶解させた蛍光剤(クマリン30)の蛍光強度が油温の影響を強く受けることが判明し,冷媒溶解濃度分布測定がまだ行えていない.
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今後の研究の推進方策 |
蛍光強度の温度依存性の問題を解決して,“冷媒雰囲気下潤滑膜観察装置”と“潤滑膜内濃度分布計測システム”を用いて,潤滑膜内における膜厚方向の冷媒溶解濃度分布測定を行う.蛍光強度の温度依存性の問題は,(1)測定中の油温を一定に保つ,(2)蛍光強度の温度特性を測定する,(3)同じ励起・蛍光波長を有して温度依存性の低い他の蛍光剤に変更する等の対策により対応可能と考えている. 冷媒溶解濃度分布の測定結果は冷媒溶解濃度変化現象の解析モデルに基づいた計算結果と比較して,提案した解析モデルの妥当性を検証する.また,提案した解析モデルを用いて様々な摺動条件で計算を行い,潤滑膜内で冷媒溶解濃度が減少,すなわち潤滑膜内で粘度が増加して,潤滑状態が緩和される摺動条件を明らかにし,冷媒圧縮機の摺動部の潤滑状態を最適にする潤滑設計の指針を作成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は冷媒溶解濃度分布測定に必要な試験片,試料油,実験装置の一部改良に使用する計画である.
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