精密位置決め技術は,半導体製造装置や超精密工作機械および精密測定機などの基幹性能を支配する最も重要な基盤技術の一つであり,着実な進展が期待されている.本研究では,最大1mm程度のストローク(ミリストローク)にわたってナノメートルレベルの直動分解能を持ち,センサレスで駆動可能なコンパクトで低コストな直動アクチュエータを,同軸二重型差動ボールねじとステッピングモータを一体化することによって実現することを目的とした.設計仕様としては,出力軸の実効ストローク1 mm,位置決め分解能5 nmという目標を設定した. 目標仕様を実現するため,同軸二重型差動ボールねじとステッピングモータを一体化する構造とし,出力軸の直動案内部をクロスローラガイドにより構成して,リニア動作を差動出力ターミナルから直接出力可能な超高分解能リニアステッピングアクチュエータを実現した.運動性能を詳細に測定可能な実験装置を構成し,種々の条件で運動性能を評価した結果,位置決め分解能は目標仕様の5 nmを実現していることを確認した.しかし1 mmのストロークにわたって差動出力ターミナルの送り誤差が1μm程度残留していることが分かった. そこで平成25年度には,差動出力ターミナルの送り誤差の補正方法について検討した.全ストローク(1 mm)にわたる送り誤差については,100 nm程度の再現性が得られていることから,実測した送り誤差データを元に目標ステップを修正して送り誤差を補正するアルゴリズムを構成した.その結果,差動出力ターミナルの送り誤差を60 nm(RMS値)まで改善することができた.さらに差動ボールねじの入力軸と出力軸を構成する合計4本のねじ溝のリード精度を三次元測定機により測定し,アクチュエータの送り誤差と個々の部品精度との関係について考察を行って,実用化への可能性と解決すべき問題点を指摘した.
|