研究課題/領域番号 |
23560166
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研究機関 | 札幌市立大学 |
研究代表者 |
三谷 篤史 札幌市立大学, デザイン学部, 講師 (70388148)
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研究分担者 |
松尾 保孝 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (90374652)
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キーワード | 非対称微細加工 / トライボロジー / 振動輸送 / 異方性エッチング |
研究概要 |
平成23年度に確立した,面方位<221>結晶面を表面とするシリコンウエハの異方性を利用したエッチング加工により,周期的な非対称三角形構造を均一に生成し,非対称表面を得る技術を発展させ,より高精度な表面の開発を目指した.前年度においては,3種類の非対称加工表面を生成したものの,過大なレジスト残存やオーバーハングにより,本来の結晶面が露出せず,理想的な非対称性を得られなかった.今年度は,エッチングパラメータを見直し,結晶面がより露出するような加工を試みた.その結果,4種類の微細加工形状を持つ表面を開発した.前年度と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面形状を計測し,非対称性と均一性を検証した.その結果,生成された非対称微細周期構造の先端が残存レジストにより平坦であるものの,面方位<221>結晶体の理論値に近い仰角を有していることがわかった.次に,前年度と同様な方法により,表面の摩擦特性を検証した.この際,HEIDON Tribogear HHS:2000(新東科学)やアジレント社Nano Indenter G200の適用を検討したが,どちらも接触式であり,表面が破損する危険性を考慮し,微小物体の摩擦角計測をするにとどめた.微小物体に0402型セラミックチップコンデンサ(サイズ:0.4×0.2×0.2 mm, 重量:0.1 mg)を採用し,温湿度一定下で摩擦角計測実験を実施した.その結果,全ての表面が摩擦の非対称性を有することがわかった.微小物体の輸送実験により一方向輸送の実現性を確かめるとともに,輸送時における微小物体の運動を秒間1000フレーム程度の高速度カメラで撮影し,PTV(Particle Tracking Velocimetry:粒子像追跡型速度解析)により運動を解析した.その結果,これまでの表面よりも安定した輸送を実現できていることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の成果を発展させ,より高精度な異方性エッチング加工による非対称周期構造表面の開発に成功している.特に,微小物体の輸送実験において,これまでよりも安定した微小物体の運動が観察されており,表面形状パラメータと輸送速度の関係がより明確になることが期待される.これらの実験結果を用いれば,ノイズの少ない高精度な同定結果が得られるため,動特性を導出するために必要な条件を整えることができたと考える.今年度開発した表面は,前年度と同様な方法を用いて形状の非対称性,摩擦の非対称性,一方向輸送の実現性を検証できている.一方,前年度より問題としてあげられていた,エッチング加工における残存レジストについては,エッチング液を斜めから照射する方法を適用し,残存量を低減する方法を試みる予定であり,今後の研究においてより理想的な加工表面を得ることが出来ると考える.また,今年度の研究を通して,微小物体の運動解析にPTV (Particle Tracking Velocimetry:粒子像追跡型速度解析)を用いる方法を確立できた.これは,微小物体の位置だけで無く,速度や回転の解析にも適用できるため,このまま研究を推進していくことにより,より詳細な微小物体の動特性解析を実行できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに開発した非対称周期構造表面の先端部には,レジストが残留するによる平坦部が生じており,台形に近い形状になっていることがわかっている.ここでは,エッチング液の斜め方向噴射によりエッチングを行う方法を適用することにより,残留レジストの低減を目指す.これらの手法により得られた表面について,形状の非対称性,摩擦の非対称性,一方向輸送の実現性を,平成24年度までに実施してきた方法を用いて検証し,その特性を比較する.特に,摩擦の検証についてはHEIDON Tribogear HHS:2000(新東科学)やアジレント社Nano Indenter G200等の接触式摩擦計測装置の適用は避け,微小物体の摩擦角計測を引き続き適用する.また,微小物体の運動解析については,今年度に確立したPTVを用いる方法を適用し,様々な駆動条件における輸送の安定性を検証する.次に,非対称周期構造表面に別のパターンを生成することにより,ハイブリッド表面を開発する.ここでは,キリギリスの足表面が六角形の微細なパターンを有しており,このパターンが摩擦力を低減させていることに着目する.これまでに開発した非対称周期構造上に再度フォトジストを塗布し,キリギリスの足を模した六角形パターンを持つフォトレジストを適用してエッチング加工を再度実行する.これらの工程により,非対称周期構造と六角形パターンが組み合わされたハイブリッド型表面を生成する.ここでは,非対称周期構造と六角形パターンの生成の順番を変更する等様々な試行錯誤を繰り返し,ハイブリッド型表面の生成方法を確立する.これらの工程に予得られた表面の特性については,これまでの同様な方法を用いて検証し,パターン生成による効果を検証するとともに,微小物体の輸送実験およびPTVによる運動解析を通して輸送特性を検証し,それらの結果を基に微小物体の動特性を解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においても,前年度までに確立した手法に基づき,シリコンウェハの異方性エッチングによる非対称周期構造表面を開発する.これらの経費としては,<221>シリコンウェハ購入費,エッチングに必要な消耗品,ハイブリッド表面の開発に必要な六角形パターン用フォトマスク開発費等が挙げられるる.表面の生成には,引き続き北海道大学創成科学共同研究機構オープンファシリティの従量課金型施設を利用する.輸送実験の際には,微小物体の動きを捉えるためにビデオカメラやセンサを用いる.これらを適切な位置で固定するために,実験内容に応じた治具が必要になる.また,センサ信号は計算機に取り込むため,配線や電子回路が必要となる.研究の遂行にあたり,実験の実施における効率化を図るため,輸送実験とその記録,解析においては大学院生に研究補助を依頼する.平成24年度においては,研究補助学生の都合により従事時間が短縮されたため,研究費に残額が発生した.これらの分も含めて今年度の謝金を執行する.輸送対象となる微小物体として,セラミックチップコンデンサを用いる.特に,微小物体の寸法や質量が輸送特性におよぼす影響を検討するため,様々な形状寸法のものを購入する.研究成果は,日本機械学会や日本ロボット学会,計測自動制御学会の学術講演会および学術雑誌にて発表するため,それらにかかる出張旅費および投稿料を拠出する.
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