研究課題/領域番号 |
23560168
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
竹内 彰敏 高知工科大学, 工学部, 教授 (30206940)
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キーワード | トライボロジー / 撥水処理 / 多孔質面 / スリップ流れ / 超音波 |
研究概要 |
本研究では,スリップ流れの有無によるせん断流量の不連続性により負荷を発生させる,スリップスラスト軸受の作動原理の解明を目的とする. 1.昨年度検討したPZT送信素子とPVDF受信素子を組み合わせたハイブリッド型超音波探触子では,実際のスリップ軸受の撥水領域での極微小キャビティーの検出精度を大幅に改善させることが難しいとの最終見通しがついた.むしろ,伝播経路での媒質の違いを顕著に受ける表面波の利用が好ましいことが分り,初期の計画とは異なるが,表面波による極微小キャビテーション観測を実施することとし,その実験装置の検討を行った. 2.高周波超音波探触子を用いて低面圧下での膜厚測定を行い,1~3μmの膜厚での作動やマクロなキャビティーは発生しないこと,荷重・速度の影響が先窄まり部を有する従来軸受と同じ傾向になること,観測された膜厚から推定したスリップ長さと膜厚の比は,従来の壁面スリップの実験での観測値に近いこと等を明らかにした.なお,この結果は「部分撥水処理を施した平坦なスラスト軸受の超音波膜厚測定」として機械学会論文集C編に掲載が決まっている. 3.微小圧力計による潤滑面の圧力測定の結果,非撥水領域から撥水領域に向かう境界で最大の正圧が発生し,逆方向の境界では僅かな負圧が観測され,正圧による支持荷重の概算値は負荷荷重にほぼ等しくなった.壁面スリップを利用した本軸受構造での十分に安定した運転が期待できる. 4.数百nmの溝を有するステップ・スリップ軸受の実験と解析により,軸受特性の改善にとって溝部でのスリップが有効であることを確認できた. 5.しゅう動中の部分緻密化軸受面の超音波観測結果から,多孔質体の微小な穴部にトラップされた微小気泡の存在を確認でき,この気泡上での潤滑油の滑流に伴う,多孔質部と緻密部でのせん断流量差の増加と,負荷容量や膜厚の増大,そして摩擦低減の可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
撥水面での極微小キャビティーの観測については,検討中であったハイブリッド型超音波探触子の利用効果が当初の予測ほど高くはないことが明らかになったものの,表面波の利用で目的の観測ができる可能性を明らかにできている.また,従来の超音波測定法によるマクロキャビテーションの未発生の確認と定量的な膜厚測定,スリップ軸受理論との対比によるスリップ長さの推定,作動状態にある軸受面での圧力測定等により,本軸受の作動原理の基礎を確立できている.併せて,ステップ・スリップ軸受の可能性や,部分緻密化多孔質軸受の作動に対する微小キャビティー効果の可能性を指摘できた.
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今後の研究の推進方策 |
本軸受の作動原理の解明にとっての最重課題である,超音波法(上記理由により表面波に変更)での極微小キャビティーの観測に注力すると共に,開発した有限幅スリップ軸受やステップ・スリップ軸受ソフトによる解析と,最適形状の検討を行う.併せて,部分緻密化多孔質軸受に対する,多孔質孔部でのミクロな気泡とスリップの影響につき,実験と理論の双方での検討を行う.そして,潤滑面でのスリップ流れを利用した簡易な軸受構造の実用化の指針を示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
潤滑面での極微小なキャビティーの発生状況の観測に必要な,表面波発生治具と測定装置の製作に,次年度に繰り越す研究費を充てる.真空蒸着による撥水膜(領域)の作成に必要な器機やガラス円板・多孔質試験片等の実験で必要な消耗品や,成果発表ならびに専門的知識の提供に対する謝金については,本年度申請した研究費において賄う予定である.
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