研究課題/領域番号 |
23560170
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
馬渕 清資 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (70118842)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人工股関節 / 潤滑性能 / 摩擦係数 / 半径差 / 表面精度 |
研究概要 |
本年度は,骨頭と臼蓋の半径差および表面形状と潤滑性能にどのような関係があるか調べ,流体潤滑の実現の可能性と,金属同士の摩擦面を有する人工股関節が,安定した長期臨床成績を維持できるか否かを検討した. 円弧求心型研磨法にて作成した骨頭径32 mmのCo-Cr-Mo製の金属骨頭と金属臼蓋を,それぞれ171通り組み合わせ,様々な半径差における摩擦試験を行なった.摩擦測定は,振子型試験器を用いた揺動振子法にて行なった.潤滑液として生理食塩液を臼蓋に満たし,室温23℃の下で実験した.スクイズ流体膜潤滑の効果を評価するため,荷重を加えた直後の測定と一定時間経過した後の測定を行った.10回の測定を繰り返し,平均値と標準偏差を求めた.摩擦係数と半径差の関係に多項式近似を行った.表面精度との相関に関しては,摩擦係数と実効真球度,実効表面粗さの重回帰分析を行なった.摩擦係数は0.122 から1.05 と広範囲に分散した.半径差-摩擦係数グラフに五次近似曲線を引くと,半径差20-30 µmで摩擦係数は最小となり,それよりも半径差を大きくすると,摩擦係数は増加傾向を示した.また,半径差10 µmよりも小さい範囲では,摩擦係数は急激な増大を示した.このことから,半径差と摩擦係数は,単純な相関を示さないことがわかった.摩擦係数と実効真球度SE および実効表面粗さRE 間における回帰分析の結果,重相関係数Rはそれぞれ,0.028,0.14となり,相関は見られなかった.しかし,真球度の劣化および表面粗さの増加に伴い,摩擦係数が増加する事がわかった.本実験の結果,製品版の人工股関節を含めて,可能な限り高精度で加工したMOMの摩擦面の潤滑性能は,摩擦係数の最小値が0.1程度であり,十分な流体潤滑は,実現できなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の最も重要な検討項目である人工股関節の潤滑性能に及ぼす半径差の影響に関する実験は,試験片の数が十分に確保できたことにより,相当量の結果を得ることが出来た.それにより,最適な半径差の値を精度よく推定できた.また,摩擦面の加工精度を評価するために,従来用いられてきた片側づつの評価基準を,相対する摩擦面の表面精度から実効真球度,実効表面粗さを求める方法を新規に考案し,それを用いた評価を行うことができた. その成果の報告を,3つの国際会議,24th Annual Congress of International Society for Technology in Arthroplasty,International Tribology Conference, Hiroshima 2011,The 6th International Biotribology Forum を含む8つの学会で発表した.そして,和文1編,英文1編の論文を取りまとめ,学会誌に投稿した.
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今後の研究の推進方策 |
金属同士の摩擦面を有する人工股関節において,半径差の最適設計指針が得られた.その値は,20-30μmであり,それ以上半径差を縮めると,辺縁でのクランピングが懸念される.これはサーフェスタイプのものなど,臼蓋側の厚みが充分確保されていない場合に可能性は高くなる.しかし,十分な厚みを与えた場合でも,Hertz接触半径が臼蓋半径を超えれば,クランピングを生じ,潤滑は破綻する.よって,今後の課題として,実際の臼蓋の形状を想定した仮想モデルを対象とした有限要素解析を行い,摩擦面のクランピングの発生条件を推定する.それにより,半径差の最適設計を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
人工股関節の試作品の作成費用 50万円 力学試験に用いる荷重センサ 20万円 力学試験に用いる変位センサ 20万円 有限要素解析ソフトウエア保守 20万円 成果報告旅費 30万円
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