研究課題/領域番号 |
23560171
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
富岡 淳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40217526)
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研究分担者 |
宮永 宜典 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (00547060)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メカニカルシール / レオロジー / 表面粗さ / 血液 / 人工心臓 |
研究概要 |
平成23年度は,血液のレオロジー特性を取り入れた血液潤滑理論と実験によって血液シール下におけるメカニカルシールのトルク・温度特性やもれ特性を明らかにすることを目的とした.1.血液のレオロジー特性の解明を目指した.血液は赤血球の凝集によって,ずり速度とせん断応力の間に非ニュートン性を示す.また,申請者はこれまでに,血液の加齢によってもレオロジー特性が変化することを明らかにしている.しかし,メカニカルシールしゅう動面のようにせん断のみならず振動をも伴う環境おけるレオロジー特性は明らかでない.そこで平成23年度では,定常流で流動特性を求めることによって,血液のレオロジー特性を明らかにした2.メカニカルシールの血液潤滑理論の構築の準備をした.現在,メカニカルシールの潤滑理論は確立されているとはいえず,これまでの研究はシール面にそりや傾きのある場合やうねりのある場合を前提に検討を行っており,メカニカルシールの設計理念とは相反する仮定となっている.そこで平成23年度は,血液による非ニュートン性と接触理論を組み合わせて,メカニカルシールの血液潤滑理論を構築を目指した.3.実験による検討を行った.現有の実験装置を用いてトルク・温度特性やもれ特性の検討を行う.実験装置にはトルク計が設置されており,運動条件ごとにしゅう動面の摩擦損失トルクを測定することができる.また,メカニカルシールを構成するシートリングには温度計測用のサーミスタが埋め込まれており,これによりしゅう動面下1mmの位置で温度計測を行った.血液とクーリングウォータの双方向もれ量は,もれに伴う溶液の濃度変化に注目し,この濃度変化をイオンクロマトグラフィを用いて分析することで計測した.また,これらの測定結果をもとにストライベック線図描き,しゅう動面の潤滑状態を考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の達成度はおおむね順調であるが,平成23年度に購入を計画していた振動流に対するレオロジー測定装置が予想より高額であり,年度内に購入できなかったため,振動流に対する血液の非ニュートン牲の実験を行うことが出来なかった.その点に関しては,研究の達成度がやや遅れている.しかし,平成24年度に購入後は,直ちに実験をして,考察出来る準備が整っているため,この遅れは取りかえす見込みがある.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,しゅう動面における血液の存在割合を理論と可視化による観察によって明らかにする.また,平成23年度とは異なり,観察によって血液シール下の潤滑特性を検討する計画である.1.しゅう動面における血液の存在割合を検討する.人工心臓用メカニカルシールは,しゅう動面の潤滑・冷却・洗浄を目的としたクーリングウォータシステムが搭載されている.しかし,しゅう動面にどの程度の血液が存在しており,潤滑特性にどのように関与しているかはこれまで調べられたことがない.しかし,潤滑特性を明らかにするためには,これを調査することが必要である.そこでまず,理論的なアプローチによって血液の存在割合を明らかにする.具体的には,しゅう動面での血液とクーリングウォータを完全混合状態と完全分離状態の2通りに仮定し,血液の見かけの粘度と接触が摩擦損失トルクに寄与することを利用してその割合を推定する.2.しゅう動面観察によりしゅう動面における双方向もれ特性を明らかにする.上述のように,しゅう動面には血液とクーリングウォータが混在している.そのため,このメカニカルシールでは血液からクーリングウォータ側へのもれ量とクーリングウォータから血液側へのもれ量の双方方向のもれが存在する.もれ量自体はイオンクロマトグラフィを用いた実験により定量的に把握することができるが,これらの双方向もれがどのように生じているかは明らかにできない.そこで,本研究でしゅう動面を可視化し,リアルタイムで観察することで,双方向のもれがどのように生じているのかを明らかにする.3.血液シール下特有の付着性生物の有無や摩耗特性を明らかにする.実験前後のしゅう動面のSEMによる表面観察および表面分析を行い,血液シール下特有の生成物や摩耗特性を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に購入予定であったレオロジー測定装置を平成24年度に購入する予定であり.定常流と振動流の双方で流動特性を求めることによって,血液のレオロジー特性を明らかにする.また,その他の研究費も,事前に提出した予定に沿って,使用する.本研究では,血液シール下という超特殊環境下におけるメカニカルシールの潤滑特性を扱い,また,ここで得られた成果は人工心臓という非常に社会的注目度の高い技術において応用が期待されている.そのため,得られた成果は広く社会や産業界に還元されるべきものであり,随時論文発表を通じて発信する予定である.論文別刷費用はこれに当てるために必要である.また,研究成果の発表は国内外の学会およびシンポジウム等において,年に数回程度行う予定であり,そのための交通費,参加費,日当,宿泊費として,事前に提出したとおり使用予定である.
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