研究課題/領域番号 |
23560174
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
後藤 実 宇部工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (00435455)
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研究分担者 |
秋本 晃一 日本女子大学, 理学部, 教授 (40262852)
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キーワード | トライボロジー / 国際情報交換 / 表面・界面物性 / 薄膜 / ナノ構造 / 放射線X線粒子線 / フランス |
研究概要 |
平成24年度は、プラズマCVD法とマグネトロンスパッタ法の複合プロセスにより成膜した銅および銀を含有するダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜の摩擦摩耗実験を行い、摺動時の垂直荷重変化に対する摩擦係数の変化に注目して解析を実施した。成膜基板にはSi(100)ウエハを使用しているが、成膜前に有機アルカリ洗浄を行うことにより膜の密着性が大幅に向上することを見出した。銅を含有するDLC(以下、Cu-DLC)は超高真空中および大気中における大きく異なる荷重条件下においてベアリング鋼球と摩擦させた場合には比較的低く安定した摩擦特性を示すが、銀を含有するDLC(以下、Ag-DLC)は最大ヘルツ面圧の増加に伴って摩擦係数が増加する摩擦係数の荷重依存性があることが確認された。一方、Ag-DLCと真鍮球を摩擦した場合には、摩擦係数の垂直荷重依存性は大きく減少することが確認され、Ag-DLCの摩擦係数の垂直荷重依存性は摺動相手材料の物性に関係があるものとみられる。Cu-DLCおよびAg-DLC両方とも安定した摩擦係数が得られるときにはそれぞれの添加金属元素を主成分とするトライボフィルムが形成されるが、ナノインデンテーションによるBerkovich圧子の押込み試験では、Ag-DLC由来のトライボフィルムに対する押込み深さはCu-DLC由来のトライボフィルムに対する押込み深さよりも約30%程度深いことが明らかになり、ベアリング鋼球を摺動相手材とした場合にはトライボフィルムの硬さが小さい方が摩擦係数の荷重依存性が現れる結果を得ている。Ag-DLCで生じた摩擦係数の荷重依存性はSingerらの報告にあるヘルツ接触モデルに良く従うことが確認された。また、本研究で取り扱うトライボフィルムは比較的硬さが小さいためにナノインデンテーション測定時の圧痕周囲に盛り上がりが生じる為、補正に関する検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はAg-DLCで新に発現した摩擦係数の荷重依存性に着目した実験を行い、より研究の効率的な推進を図った。具体的には、Ag-DLCの成膜時の基板下地処理条件の変更を行い膜の耐剥離性の向上を図り、Ag-DLC由来のトライボフィルムとCu-DLC由来のトライボフィルムのナノインデンテーション測定結果の比較方法に関する検討を実施した。摩擦界面を形成するトライボフィルム極表面の硬さと摩擦特性の関係を明らかにすることは摩擦界面における軟質金属層の挙動と摩擦・摩耗特性を解明する上で重要である。従って、平成24年度の進捗状況は概ね順調といえる。 また、次年度使用額が生じた理由は、年度を跨いでフランスECLにて実施したトライボフィルムのナノインデンテーション測定のための旅費の支出によって生じたものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、引き続き金属含有DLCの摩擦界面に生成するトライボフィルムの機械的性質のキャラクタリゼーション技術の確立に取り組む。また平行して、トライボフィルムの硬さと摺動相手材の材料定数が摩擦係数の荷重依存性におよぼす影響についての理論的解明を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、フランスECLにおけるナノインデンテーション測定のために必要な旅費や、東北大学および日本大学設備による摩擦実験のための旅費、研究成果の発表のための旅費と参加費に充てるほか、試料調整のための材料の購入費、実験治具工具の製作費に充当する。また、次年度使用額は次年度予算と合算してトライボフィルムのナノインデンテーション測定のための旅費に充当するほか、これまでの研究成果をイタリア・トリノで開催される第5回世界トライボロジー会議(WTC2013)およびトライボリヨン等の国際会議で発表するための費用に充当する。
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