研究課題/領域番号 |
23560176
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
土佐 正弘 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20343832)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | トライボロジー / 固体潤滑 / スパッタコーティング / 真空 / 表面分析 / シリコン系酸化物 |
研究概要 |
シリコン系酸化物(SiOx)コーティング膜の化学量論比xが摩擦係数に及ぼす影響を検討し、低摩擦潤滑性を発現できる化学量論比について基礎的検討を行った。まず、スパッタ蒸着法を活用してSUS304およびSUS440Cの各ステンレス鋼基板表面に珪素系酸化物をコーティングするために、プラズマスパッタリングに用いるアルゴンガス雰囲気の酸素分圧を0から100%まで5%刻みでガス流量を微調整することができる高周波マグネトロンスパッタコーティングシステムを設計・試作するとともに、このシステムを活用することで化学量論比が異なるシリコン系酸化物コーティング膜が均一・一様に作成できることを確認した。作製したコーティング膜のトライボロジー特性は、大気中、ならびに、高真空中で,摺動式摩擦試験器により摩擦係数を測定することで総合的に評価し、特に、大気雰囲気中での摩擦測定では印可荷重とすべり回数をパラメーターとして変動測定することにより詳細な摩擦特性を把握し、最も低摩擦が期待される最適化学量論比、および、結晶配向性について、電子プローブマイクロアナライザやオージェ電子分光分分析器、X線回折装置等を用いて検討した。さらに、マイクロビッカース硬度計を用いてプローブ印可荷重を変動させることにより膜最表面層から膜基板界面までの深さ方向において微小箇所の機械強度、および、その変動を計測するとともに、膜の密着性についても検討した。その結果、シリコン系酸化物潤滑剤コーティング膜の化学量論比が摩擦係数に及ぼすスパッタ全圧や酸素分圧等いくつかの重要な基本的知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スパッタコーティングの主要パラメータの酸素分圧を0から100%まで5%刻みでガス流量を微調整することができる高周波マグネトロンスパッタシステムを設計・試作するとともに、このシステムを用いることで化学量論比が異なるシリコン系酸化物コーティング膜が均一・一様に作成できる装置性能を確認するとともに、大気中ならびに高真空中トライボロジー特性、低摩擦が期待される最適化学量論比、および、結晶配向性についてそれぞれ検討し、さらに、膜最表面層から膜基板界面までの深さ方向において微小箇所の機械強度や膜の密着性についても評価し、その結果、シリコン系酸化物コーティング膜の化学量論比が摩擦係数に及ぼすスパッタ全圧や酸素分圧等いくつかの重要な基本的知見を得ることができ、順調にスタートを切ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙軌道上で曝露することで見いだされた固体潤滑剤被膜の物性と性能についてその詳細を明らかにするとともに、その知見を元にシリコン系酸化物をベースとする長期信頼性に優れた高性能軌道真空環境用固体潤滑剤コーティングの開発をめざすべく、酸化シリコンコーテイング膜断面のマクロ構造や結晶構造ならびに結晶配向性について分析しマクロ・ナノ構造及び膜の化学量論比が摩擦係数に及ぼすメカニズムについて明らかにするとともに、さらに、中長期的なメンテナンス簡便化をはかるべく、コーティング膜自体の剥離や下地基板材料との密着性の劣化が予想されるために自己修復的な機能の付与をめざし、表面偏析現象を酸化シリコン潤滑コーティング膜に応用することをこころみ、メンテナンスが容易な新規高性能シリコン系潤滑コーティング膜を開発し、そのトライボロジー性能と自己修復性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
ピンオンディスク式摩耗試験器を用いて長時間にわたる摩擦試験により酸化シリコン(SiOx)コーティング膜の真空中での耐摩耗性ならびに信頼性を分析し、トライボロジー性能の総合評価を行い、膜の化学量論比xがトライボロジー特性に及ぼすメカニズムについて明らかにする。さらに、自己修復的な機能が期待できる表面偏析現象をSiOxコーティング膜に応用することをこころみる。この計画を推し進すすめるためには、高品位のシリコンターゲット材料、コーティングシステムの真空機器用消耗品費や真空機器としてのメンテナンス費である交換用機器部品、ならびに、トライボロジーや機械特性評価用の消耗品である計測ピン・プローブ類、さらにデータ解析用のPC用品等があげられる。また、研究成果を発表するための学会参加費や旅費・宿泊費や論文投稿料も計上される。
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