研究課題/領域番号 |
23560179
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坪倉 誠 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40313366)
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キーワード | 流体工学 / 乱流 / 空力 / ブラフボディ / ラージエディシミュレーション |
研究概要 |
本研究では、以下の6つの研究課題を段階的に進めることで、実用ブラフボディに見られる各種後引き渦と境界層剥離の複合的な物理メカニズムを解明し、戦略的な空力抵抗低減制御の実用化へ向けたノウハウ構築を目指す。(1)簡易形状車体モデルを対象とした空力抵抗発生メカニズムの解明、(2)吹き出し&吸い込み等の要素制御技術の数理モデル化、(3)後ひき渦対の不安定性成長、(4)簡易形状車体モデルを対象とした空力抵抗低減制御技術の提案、(5)実走行状態における制御技術の効果検討、(6)実車両形状モデルを対象とした戦略的空力抵抗低減制御技術の提案。 昨年度実施した(1)~(3)に引続き、今年度は(4)~(6)に取り組んだ。ここでは最終的な目標である戦略的空力抵抗低減制御技術の提案に向けて、セダン型車体周りに発生するさまざまな後ひき渦構造の力学的相互作用と、これらの渦構造により引き起こされる空力抵抗と高速安定性への影響について検討を行った。まず(5)の実走行状態の模擬として、実測から得られている実車高速走行時の車体に作用する変動風周波数に対して,相当する車体ヨー角変動を周期的に与え、その空力応答特性を(4)の簡易形状車体に対して行った。ここでは特に、車体両側面に発生する境界層厚さの差異が、空力抵抗とヨー運動安定性に与える影響に着目して解析を行った。車体側面の境界層厚さは特にフロントホイールハウスからの流れの吹き出しの差異に強く依存することから、この部分に対して強制的な吹き出しを与えて厚さをコントロールした。これらの結果から、側面境界層厚さをコントロールすることで、車体抵抗低減と高速安定性を両立できる可能性があることがわかった。また(6)として実車体形状に近いDrivAerモデルを用いた強制ヨー振動解析を実施した。現在、(4)の知見が(6)の実車体形状でも適用可能であるか、検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施した(4)については、当初の計画では抵抗増加に寄与する後引き渦を具体的にフィードバック制御することで20%程度の抵抗低減を実現することを目標に掲げていた.これに対して本年度は、実際に制御することで20%程度の低減を実現することはできなかった一方、当初想定していたリアウィンド剥離に寄与するピラーからの剥離渦に加えて、高速走行安定性に寄与する側面渦構造と空力抵抗の関係が明らかになりつつある。この結果(4)については総合的には達成度50%程度であり、残りは来年度実施する。(5)については車体の実走行状態の模擬が大きな課題になるが、これについては当初予定していたALE法に加えて非慣性系解法を併用することで、コーナリングを含む任意の車両運動の再現に成功しており、当初の目標をほぼ達成していると言える。(6)については、(4)で新たに得られた側面渦構造と高速安定性の関係が明らかになったことから、研究開始時にある程度知見が得られていたピッチ運動安定性とピラー渦との関係に加えて、セダン型車体周りに発生する様々な後引き渦の力学的相互作用が明らかになりつつある。この結果、本研究の最終的目標として掲げていた戦略的抵抗低減に加えて、高速走行安定性も考慮して統合的空力特性向上手法の提案が可能となりつつあり、当初想定した目標に対して大きく進展した知見が得られる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、セダン型車体に発生する様々な後引き渦の力学的相互作用と、その空力抵抗や実走行時のピッチ、ヨー運動安定性(高速走行安定性)に与える影響が明らかになりつつある。今後はこれらの各種渦構造を強制的に制御することで、具体的な抵抗低減手法を確立する必要がある。一方で後引き渦の相互作用を考えた場合、エンジンルームや床下等の形状再現性が重要な課題となり、今後は(4)の簡易形状車体では十分ではなく、(6)に対して今年度実施したより実車に近いDrivAerから、さらに実車に近い詳細モデルを使った解析が必要となる。また(5)については今年度までに実施した、強制的なヨーやピッチ運動に対して、より実走行状態に近い運動の再現が必要となる。この点については連携企業の協力により、実走行データを活用した解析を実施する予定である。最終的には、実形状車体に対して、今まで得られているフロント・リアピラー起因の渦、フロント・リアタイヤハウスに起因する渦、エンジンルームからの吹き出しを含む床下渦,ドアミラー起因の渦等の力学的相互作用をさらに明らかにし、各渦に対する能動的制御から抵抗低減方法の提案を試みると共に、今年度可能性を示せたピッチ・ヨー運動の空力安定化に基づく高速走行安定性の向上も含めた統合的空力性能向上に向けた策を模索していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度末使用額(71,684円)については,物品は年度末まで購入したが,支払が年度を跨いだために発生した.次年度の研究費の使用計画については,詳細形状を対象とした解析が主となるため大型計算機費用を計上する他、実走行試験への立会や成果報告のための旅費を計上する。
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