研究課題/領域番号 |
23560187
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三神 史彦 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40272348)
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キーワード | 流体工学 / 複雑流体 / マイクロ流 / 界面活性剤 / ひも状ミセル水溶液 / 高次構造体 / 流れの可視化 / 位相差顕微鏡 |
研究概要 |
本研究は,CTAB/NaSal系界面活性剤の紐状ミセル水溶液において,高ずり速度下の流動によって誘起される,長時間持続するミセル高次構造体の形成過程とその構造を,顕微鏡下での可視化などを用いて解明することを目的としている.平成24年度は,円柱を規則的に配置したマイクロ流路と長方形ブロックを並べたスリット型のマイクロ流路の二種類を作成し,障害物を通過するときの流れの状態変化およびミセル高次構造体の生成について,流れの可視化と位相差顕微鏡観察によって調べた. 円柱を配置した流路では,円柱直径,円柱の数,空隙率などを変えて実験を行った.また,円柱群を通過する流れについて,パネル法によるポテンシャル流れの解析を行った.この結果,(1)円柱群を通過する脱イオン水の流れはポテンシャル流れのパターンとよく一致すること,(2)界面活性剤の紐状ミセル水溶液では,脱イオン水では見られない乱れが生じること,(3)乱れの発生と対応して,円柱配列の間に周囲の流体と異なる屈折率をもつゲル化した流体が位相差顕微鏡観察によって筋状に見られること,(4)ここで観察されたゲルは時間経過で消失すること,などの知見を得た. 長方形ブロックを配置した流路では,せん断が支配的となるスリット型流路と,よどみ点から伸張流れが生じるように,隣り合うスリット間に切り込みを入れ導通させたブロック型流路を作製して実験を行った.この結果,(1)対イオンのモル比が大きい流体のほうが低流量で流れの乱れが生じること,(2)円柱配列の場合と同様,位相差顕微鏡観察によって像の明暗のゆらぎの線としてミセル高次構造体を観察できること,(3)スリット型流路よりもブロック型流路のほうが,隙間へ流れ込む流れの偏りが大きく,ゆらぎの線の絡み合いが形成されやすいこと,(4)ゆらぎの線は弾性に富むゲル状物質で,可逆的なゲル化であること,などの知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミセルの配向や高次構造体の形成について,当初計画していた偏光を利用した観察方法は,観察対象のリタデーションが小さく,変化を捉える事が困難だった.一方,平成24年度に位相差観察を試みたところ,はっきりと高次構造体の生成のようすを捉えられることを見いだし,予想外の進展が得られた.この結果,マイクロ流路の障害物の近傍で発生するミセル高次構造体の性質について,多くの新しい知見を得ることができた. 今回観察されたミセル高次構造体は,時間経過でもとの流体にもどる可逆的なタイプであることがわかった.目標としている長時間持続するタイプのミセル高次構造体の生成までは到達できていないため,平成24年度に確立した位相差顕微鏡による観察方法をもとにして,さらにデータ蓄積を行う必要がある. 界面活性剤水溶液の対イオンのモル比の影響については,平成24年度にモル比が1以下の場合についてデータの蓄積が十分得られている. 偏光を利用した観察については,観察対象のリタデーションが大きくなるように厚みを増やしたマイクロ流路において,急縮小を伴う流れによる偏光状態の変化を捉えることに成功している. 以上より,研究の目的の達成度を,おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,平成24年度に作成した円柱および長方形ブロックを配置した多数の種類の流路パターンの中から対象流路を絞り込み,以下の三つの観点から研究を行う予定である. 第一は,目標である長時間持続するミセル高次構造体の形成を視野に入れた実験である.現時点で文献から得られる情報から判断して,平成24年度には長時間持続するミセル高次構造体が生成するような流れの条件には到達していると考えられるが,平成25年度は送液流量をさらに大きくして条件を広げて実験を行う.流量を大きくしたときに問題となる流路の漏れを防ぐため,PDMS製マイクロ流路のパーマネントボンディングなどの対応を行う. 第二は,対イオンのモル比の影響について,平成24年度に蓄積したモル比1以下のデータをもとに,平成25年度はモル比1~10の範囲でのデータをさらに追加する.モル比による流体の緩和時間の違いやモル比が大きい場合に見られるミセルのすり抜け効果の影響などについて調べる. 第三は,観察対象のリタデーションを大きくするために平成24年度に試作した厚みのある流路を用いて,平成25年度は急縮小部前後での流れによる偏光状態の変化を観察し,高次構造体形成との関連についてのデータを蓄積する. 平成25年度にはまた,これまでに得られた結果を取りまとめ,国内外で成果発表を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度予定額400,000円のうち,消耗品費(試薬類,ガラス基板)として100,000円を予定している.また,成果発表のための旅費(外国旅費,国内旅費)および学会参加登録費として300,000円を予定している.
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